櫻イミト

Mannequin in Red(英題)の櫻イミトのレビュー・感想・評価

Mannequin in Red(英題)(1958年製作の映画)
3.0
ジャッロ映画の源流「モデル連続殺人!」(1963)の元ネタとして有名な1958年スゥエーデン産エンタメ・ミステリー。原題邦訳「赤いマネキン」。監督は「春の悶え」(1951)のアルネ・マットソン。主演は「令嬢ジュリー」(1951)のアニタ・ビョルク。

【物語】
“赤いマネキン”と呼ばれる人気モデルが行方不明になり、私立探偵ジョン・ヒルマンが捜索を依頼される。彼の妻カイサは捜査のため不明者が所属していたファッション・メーカーにモデルとして潜入就職する。数日後、メーカーのショーウインドウに飾られたマネキンが倒れ背中にナイフが刺さっているのが発見される。それは行方不明モデルの死体だった。凶器は世界に4本しか作られていない骨董ナイフ。容疑者として浮かび上がるのは独裁的な車椅子の女性オーナー、その養子ボビーと甥のリチャード、現場リーダーのリンデル(アニタ・ビョルク)・・・しかしこれは連続殺人の始まりにすぎなかった。。。

マットソン監督は、マネキン人形狂いの男を描いた「沈黙の歓び」(1962)など耽美的な持ち味が好み。本作題名の“マネキン”はモデルの通称だったが、あるシーンに薄暗い地下マネキン倉庫が用意されていて監督らしさは感じることが出来た。。

ファッション事務所が舞台なので全体的にビジュアルがカラフル。ビル上からの首つり死体など犯行には手が込んでいるものの残酷な殺害場面や流血は皆無。コメディ担当の探偵助手カップルも配されていて、広く一般層に向けたエンタメ・ミステリーとして作られている感が強い。その分、スローペースで尺が長いので、マニアックな刺激を求める向きには物足りないかもしれない。

ただし最後の10分は、マネキンやカラフルなドレスが並ぶ暗い部屋に青い照明が使われて、まさにジャッロ風な映像が展開する。バーヴァ監督にインスピレーションを与えたのも十分に納得できた。本作の華やかな画面とドイツ・クリミ映画の猟奇を掛け合わせて「モデル連続殺人!」が生まれたのだと考えられる。

本作はヒルマン探偵夫婦を主人公とした全5作シリーズの2作目。マットソン監督には耽美&異常性愛映画のイメージを持っていたので、本シリーズのような大衆人気作を作っていたのを知ることが出来てよかった。

ジャッロ映画を先駆けヒントを与えた、映画史的に注目すべき一本。

※主演アニタ・ビョルクは、ベルイマン監督「シークレット・オブ・ウーマン」(1952)で主演。撮影のヒルディング・ブラドは初期ベルイマン監督作品の常連。
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