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ミステリと言う勿れのEDDIEのレビュー・感想・評価

ミステリと言う勿れ(2023年製作の映画)
4.2
子供に重いものを背負わせてはいけない。セメントのように投げ込まれたものが固まり年を重ねても足枷を背負っていく…ドラマ同様の久能整劇場で会話劇中心だが、伏線を丁寧に回収する展開は気持ちが良い。映画でも整くん名言製造機だったなぁ。

映画好き界隈ではあまり感想も盛り上がっていない感じがしますが、興行収入50億円ペースの大入り状態みたいですね。
おそらく初日からこの連休は菅田将暉ファンが中心に訪れる感じでしょうから、正直ペースは落ちると思いますが、ドラマから好きだった僕としては大満足な内容でした。
公開されたばかりの映画なので核心につながるネタバレ(犯人は誰とか、誰が殺された)は言わないようにしますが、映画の中のセリフなど一部引用させていただきますので、気になる方はお気をつけください。


『ミステリと言う勿れ』は、累計発行部数1800万部を突破する田村由美による大人気漫画を原作とし、2022年にフジテレビ月曜9時枠で放送された連続ドラマの劇場版です。
これ、第1話から第8話までのTVerにおける再生回数が合計2,389万回をカウントし、歴代民放ドラマの「TVerにおける1クール内の見逃し配信再生数の最高記録」を樹立したと発表(ビデオリサーチ調べ)がありました。
かく言う僕もリアルタイムで見逃したので、あとでTVerで配信されたから見逃し配信で観たらハマっちゃったんですよね。
ドラマ本編には特別好きな俳優が出ているわけでもなく、菅田将暉さんもまぁそこまで…という感じなんですが、この主人公の久能整くんの役柄が見事マッチしているんですね。

「常々思っているのですが…」から人間の心理や社会の心理を追求する長台詞は毎回舌を巻く内容。
一種のキャラクターものとして非常に質の高い漫画原作のドラマだと思います。
まだドラマの続編は発表されていませんが、映画の好スタートとエンドクレジット後の映像を見ると、シーズン2放送も期待できそうです。

で、今回の劇場版は天パなおしゃべり大学生の久能整が、広島に旅行に行った際に富豪たちの遺産相続争いに巻き込まれていく内容。
巻き込まれ型の主人公ですね。彼のいくところ事件が起こるみたいな。
原作漫画は読んでいませんが、原作でも人気の「広島編」というエピソードだそうです。
これは映画の中の演出で「あえて」そうしているのだと思いますが、撮影とかカットの割り方とかである程度この人が犯人だろうなぁという予測が立てられるので正直ミステリーとしては弱いです。
ただ、これは犯人が誰とかそこを楽しむミステリーではなく、ヒューマンドラマであり、
整の放つセリフを一つのきっかけとして新しい価値観を見出すと言う作品なのかなと感じました。
なので、この作品は「犯人」と言う見方で言うと、二段階の謎があり、その背景に遺産相続のための謎解きがあると言う具合で、二つの事象の犯人は容易に想像が付きます。
けど、それらの動機に多様な事象が関わっており、「なぜ彼らは殺し合うのか」と言う遺産争いの謎解きが二重的に面白くさせているのです。
この事件に巻き込まれるにあたり、ドラマから登場する重要人物の永山瑛太演じる犬堂我路が関わっていると言うのはありつつも、それ以外はほぼ映画の中だけのオリジナルの物語として進行するので、ドラマ観ていない人も楽しめる作りにはなっていると思います。

もちろんドラマ観ていた方が、整のキャラクター性がより理解できると思うので、観ているに越したことはないんですけどね。
あとは今回この映画を楽しみにしていたもう一つの理由が、自分の好きな柴咲コウ、松下洸平、滝藤賢一が出演している点です。
この3人は映画だけのオリジナルキャラクターになるので、ドラマ版には一切出てきません。
だから、彼らが物語に絡んでくると言うだけでワクワクしましたし、20年来ぐらい柴咲コウのファンしている僕からするとご褒美のような作品でした。
俳優の演技面に追求し始めると、この作品ではネタバレにかかりそうなのでこれ以上の言及は避けますが、この好きな俳優3人がいずれも個性的で味が出ていて良かったですね。

あとは整くんのセリフが今回も光っていました。「常々思っているのですが」から始まるセリフで、ドラマでも数々の名言を生み出してきました。
一番、作中で後の伏線回収にも聞いてくるのが「子供って乾く前のセメントみたいなんです」ってセリフですね。
アメリカの児童心理学、ハイム・G・ギノットの言葉を引用で、固まる前のセメントって物を落とされてしまったらそのまま固まってしまうんですね。
だから、子供だからわからないだろう、理解できないだろうと、大人の勝手な思い込みで子供に辛い思いを体験させてしまうと、それを後生まで胸に深く突き刺さったまま生きていかねばならなくなると言うこと。思わぬ形で辛い十字架を背負わせてしまうと言う話ですね。
あと、個人的にすごく良かったのが、「どうして女性の幸せを決めつけるんだろう」ってセリフから始まる長台詞です。
かなりの長台詞なので全ては覚えていないので、ここでの紹介は最小限にとどめますが、これ遺産相続の謎解きに出かけている間に、柴咲コウ演じるゆらの父親に娘を預けていたんですが、それを叱責されるんですね。
それでその親父に「幸とのんびり過ごしていられる。それが女の幸せだ。」的な決めつけのセリフを言い放たれるんです。
すると、整が「もし家にいて家事と子育てをすることが本当に楽で幸せなことであったら、もっと男性がやりたがるはずだ」って言うんですよね。
この数年で女性の社会進出とか、男女平等とかを分かったかのように語る人もいますが、
僕はこの真理をついたセリフにハッとさせられましたね。
このおっさんが言い放ったようなセリフとまではいかないまでも、まだ無意識に「女はこうあるべき」「男はこうあるべき」の考えに支配されている人もいるんじゃないかなと思います。
言葉って本当に凶器だと思うので、物理的な痛みを感じなくても心に残り続けたらモヤモヤとした感情がずっと支配するんですね。
なんだか居心地が悪かったり、ふとした瞬間に自分に投げかけられた辛い言葉が思い起こされて気分が悪くなったりですね。

改めて、言葉を放つその先には人がいて、感情があると言うことを考えなければならないなと再認識させられました。

〈キャスト〉
久能整(菅田将暉)
車坂朝晴(松下洸平)
狩集理紀之助(町田啓太)
狩集汐路(原菜乃華)
波々壁新音(萩原利久)
狩集ななえ(鈴木保奈美)
狩集弥(滝藤賢一)
志波一巳(でんでん)
赤峰一平(野間口徹)
鯉沼鞠子(松坂慶子)
風呂光聖子(伊藤沙莉)
池本優人(尾上松也)
青砥成昭(筒井道隆)
犬堂我路(永山瑛太)
真壁軍司(角野卓造)
車坂義家(段田安則)
赤峰ゆら(柴咲コウ)

※2023年新作映画128本目
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