矢野竜子

すべての夜を思いだすの矢野竜子のレビュー・感想・評価

すべての夜を思いだす(2022年製作の映画)
4.1
多摩ニュータウンという
いわば「時代」を象徴する街を舞台に
過去に想いを馳せたり
未来に想いを馳せたりそして今を感じたり。
多摩ニュータウンはいわば時代性が幾重にも重なる
時空が歪んだ空間なのである。
即興ダンスや花火は
そこに今という刹那性を出現させ、
ビデオの記録、写真、リサイクルショップのもの、
資料館は逆に過去という永劫性を出現させる。
刹那性と永劫性の共存がここにはある。
歴史は1日1日という「レイヤー」の積み重ねによって
現在に至っているわけだが、
花火をしている女の子たちを見つめる
女性の後ろ姿を捉えたカットは
私たちに歴史における「レイヤー」=多層性を
強く意識させると同時に、
今目の前で起こっていることを見るということと
すでに起こったこと=痕跡を見るということの
その大きな違いをも私たちに提示する。
花火をしている女の子を見ている女性は
今目の前で起こっている「現在」を見ているとしても、
それを映画として見ている私たちは
「過去」を見ているということにならざるをえない。
見ている観客をも多摩ニュータウンの時空の歪みに
一緒に巻き込んでしまうこの体験設計にはひたすら舌を巻く。