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すべての夜を思いだすのあのレビュー・感想・評価

すべての夜を思いだす(2022年製作の映画)
4.0
いいね〜、多摩多摩してるね〜

普段視界の端にしかいない人が動き出す快感、環境音がコンサートになって環境音戻るこの感じ...「ピアニストを撃て」だ!

「ピアニストを撃て」は主人公になった瞬間女と不幸を呼ぶという強い引力があったものの、こちらは他人の踊りを勝手に踊るというレベルの時間の共有しかなく、推進力に欠けるといえば欠けるものの、観たら間違いなく面白いけれども、特段観に行かなければならない訳でもない作品をスカラシップで堂々と撮ってしまう思い切りが、むしろ潔よかったです。特別な面白みのなさを肯定することで、全ての人間の普遍的な日常を肯定するヒューマニズム。

ジュースの果汁くらいの含有率で気持ち「何か」入ってる違う時空を生きるおばさんと、寄り道ばかりでまともに仕事をしないガス会社のお姉さん、授業すらまともに出ずに公園で踊っている限界大学生。ともすれば人生の落伍者と見做されかねない人物の時間すらも掬い取る監督の器の大きさが、殺風景なニュータウンに確かな記憶を積み上げていたところが見事でした。

多摩は、大学がある近辺などは特に伝統的な地区もあり、自然もあり、一方でそこに上書きされたようにニュータウンが裾野を広げていて、意外に新しい街というよりは、様々な歴史が積み重なった場所です。そうしたロケーションの空気感をよくもまあこんなに上手く処理したなぁと感心しました。

リヴェットの影響下にあるそうですが、「北の橋」や「ノロワ」なんかと比べると、余程リヴェットよりも一本一本丁寧に作られているんじゃないかと思いました。

しかし一方で、ここまで曖昧な構成で一点突破するのであれば、「4500年後大を覚えている人はいないんだ」というような直接的な台詞も一切排してしまう思い切りの良さがあっても良かったのでは?と思ってしまいました。それを言わずとも花火の刹那性とフィルム写真の断片的な記憶の形で見せ切るのが筋でしょう。

あと個人的に、音楽が感傷的な雰囲気を軽薄に切り取ったもののように聞こえ、若干辛かったです...「エモさ」を前面に出しすぎる音楽は逆にジャンキーかと...
あ