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マイ・エレメントのTSのレビュー・感想・評価

マイ・エレメント(2023年製作の映画)
4.1
【王道でしっかりとテーマを見せつけたのが良い】87点
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監督:ピーター・ソーン
製作国:アメリカ
ジャンル:アニメ
収録時間:93分
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 2023年劇場鑑賞32本目。
 これはナメてた。ここ最近のピクサーはあまりパッとしなかったため、これもまあ普通くらいかなと思って見にいきましたがそんなことはなく良作でした。少なくとも自分の中では『トイストーリー4』以来のピクサーヒット作。王道の展開であるものの、背伸びせず堅実に作り上げた脚本が功を奏したと思います。一言で言うと『ズートピア』の世界観に『インサイド・ヘッド』のような設定を混ぜた感じ。映像がやはり素晴らしいですし、各元素の特徴をアニメとは言え相当な技術で表しているのが良かったと思います。

 火、水、土、風の四元素が共生するエレメント・シティ。ある日、火のエレメントの一家がエレメントシティに移住し、店を開くのだが。。

 このエレメントシティがユートピア的な設定であるのが良いです。『ズートピア』のように冒頭からこの都市の凄さが伝わってきます。多様性に富んだ都市に見える一方で、都市の周縁部に暮らす人たちも垣間見え、差別社会が少なからず残存しているのだなとも捉えられました。今作においてやや差別をされているのが火のエレメントたちです。これはその性質によって差別をされてしまっています。何故なら周りのものを無差別に燃やしてしまうからです。特に水のエレメントとの相性は最悪であり、お互い触れることすら出来ないくらい。統計的に水のエレメントが多いからか、火のエレメントは差別され排除されてしまいます。このあたりは人間社会における差別の歴史にもなぞらえることができます。やはり子ども向けのアニメでもしっかりとしたテーマをぶつけてくるのがピクサーらしいです。

 さて、とある店で働いていた一家の家業を継ごうとしているのが娘のエンバーです。彼女は度々癇癪を起こしコントロールが効かなくなることはあるものの、父親からすると有望な存在です。そんな中、天敵ともいえる水のエレメントであるウェイドがひょんなことで登場します。ここからエンバーの運命が変わってくるのですが。。

 今作が伝えたいことは王道的でありシンプル。多様性を理解し、他者を信じること。それだけでしょう。しかし、それがどれだけ難しいかということは現代社会で証明されています。それを最もわかりやすく表したのが今作における火と水の関係でしょう。この二つは物質の性質的に触れるとお互いただではすまない。だから本能的にお互い触れようとはしません。これは人間社会の歴史においてもしばしばあったことでしょう。自分と異なる存在に出会った時、人間はやはり少なからず警戒心や恐怖心、そして嫌悪感を抱きます。それが長い間続けば否が応でも互いを蔑視するようになり、争いの火種となってしまいます。しかし、心は必ず通じるはず。今作はその様子をユーモアに、しかし真剣に我々に見せてくれるのが素晴らしいと思います。何かとポリコレがあからさまに出てくるのが昨今の映画の主流ですが、今作のようにやんわりと揶揄する形で表現してくれる方がこちらとしてもストレスはあまりありません。これならば大人から子どもまで納得の設定でありましょう。

 程よく面白いギャグシーンもあり、かと思えばそこそこシビアなシーンや悲しくなるシーンもあります。泣けるかどうかは人それぞれでしょうがそちらはあまり期待されない方が良いでしょう。それよりもテーマがしっかりとしていて、ワクワクする世界観を生み出してくれている。それだけで今夏必見のアニメ映画であると言えるでしょう。
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