Masato

マイ・エレメントのMasatoのレビュー・感想・評価

マイ・エレメント(2023年製作の映画)
4.5

移民2世の物語を真正面から描いた傑作

ピクサー作品にしては本国での評価が芳しくなかったのであまり期待せずに鑑賞したが、予想を遥かに超える素晴らしさだった。やはりピクサーは外さない。

移民国家アメリカの人種や社会的格差などを四元素に見事昇華させている社会性を兼ね備えたアイデアフルな世界観はもちろんのこと、よりミクロな視点にフォーカスして移民2世の苦悩をまざまざと描いていたことがこれまでになく素晴らしくって、無理にヒールを立てることはせずにラブロマンスとヒューマンドラマをそのまま描いたことが感動。

本作で描かれていることはアメリカのことを知っているとより感動できる。アメリカにおける異人種間のラブロマンスという側面であれば「ビッグシック」や「ユーピープル」、移民の苦悩という側面であれば「エブエブ」、「ミナリ」、「BEEF 逆上」、ピクサーで言えば前の「ときどきレッサーパンダ」などの作品を見ておくともっと感動できる。けど、やはりどの人でも分かるように広い形で描いていて流石ピクサー。

エブエブから始まって移民の家族を描いた作品が偶然にも増えている。上記の「BEEF」というドラマはまさに本作と肉薄するような内容で移民2世による親からの重圧を描いていて、その内容が見ていて重なりながら蘇ってきて涙がポロポロ。エブエブでは親の目線でアメリカで自由に羽ばたいていく子どもを真に愛することができるのかを描いていたからこそ、本作のエンバーの親の気持ちも分かってくる。

親が命を削って頑張ってきた代償を無下にする訳にはいかないと自分を戒める主人公の葛藤ももちろんのこと、自分の良い部分や悪い部分の居場所を家族のために無理なところへ押し込もうとはせずに、自分が悪い部分も含めて自分らしくいられる場所にいようと考えていく、自己肯定の物語にもなっていて感動。こうしたありのままの自分を変えようとはせずに肯定していくのは今の自分に足りないので自然と涙が出てくる。

監督のピーター・ソーンはアジア系であり、本作でも主人公家族が小売店を営んでいることもあって(アメリカではアジア系移民が小売店経営していることが多い)、火の一族はものすごくアジア系の香りがしている。劇伴もアジアの民族音楽をごちゃまぜたような感じで一貫している。対する水の一族はどことなく優位性を持っていて白人っぽい。

人種だとごちゃごちゃと歴史や文化が絡み合って説明が必要なのを四元素というジャンケンのようにすくみが分かりやすいものに置き換えることで子どもでもわかりやすく、それを知らない他国の人たちにでも分かるようになっている親切な作りはピクサーらしく見事。かつズートピアのように沢山いるわけではなくて四種族なので説明せずともスッキリしている。

その他だと差別からなる貧困層の現状とか、貧困層のみに公害が押し寄せてくるところとか、貧富の格差が人種差別と繋がっている所がうっすらと出てくる辺りとかリアルだった。

心から見てよかったと思えた作品だった。
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