なしの木

マイ・エレメントのなしの木のネタバレレビュー・内容・結末

マイ・エレメント(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

長いです。時間のある方のみどうぞ。


エレメント:要素、成分

4種類のエレメントが暮らすエレメントシティが舞台。火、水、土、風のエレメント達はそれぞれが特性に合った生活を営んでいる。

【あらすじ】
主人公のエンバーは火の女の子。両親はファイアランドからエレメントシティに移り住んで雑貨店を経営している。エンバーの幼い頃からの夢は店を継ぐこと。父親のバーニーは体力の衰えを感じ引退したがっている。母のシンダーは雑貨店の一角で煙を使った恋占いをするのが生業で、恋をしてる人の匂いを嗅ぎ分けることが出来る。

エンバーは雑貨店を手伝っているが、客に度々癇癪を起こしてしまう。それは年月が経っても克服できないことで、エンバー自身悩んでいた。
また、バーニーは移住してきたころから相性の悪い水のエレメントを目の敵にしていた。

店の特別セールの日、エンバーは父親から店番を任されたが大勢押しかけた客の対応にまた癇癪を起こしそうになる。何とかこらえたが地下室で爆発した彼女の炎は部屋の水道管を傷つけて酷い水漏れを起こしてしまう。すると水道管の中から水のエレメントであるウェイドが現れた。ウェイドは水道管理局の調査員でエレメントタウンの水漏れについて調査していた所、吸い込まれた水道管からバーニーの店の地下にたどり着いた。エンバーと話すうちにウェイドはバーニーの作った水道管が違法なものであることに気がつく。報告を上げるため立ち去るが、エンバーはそんな報告を上げられてはたまらないとウェイドを追いかける。

ウェイドの報告は成されてしまったが、その最中ウェイドはエンバーの店と父親に対する真摯な思いに触れる。しかしバーニーの店には営業停止命令が出る事になっていた。

翌日、営業停止命令を取り消してもらうためにエンバーはウェイドの上司であるゲイルを訪ねる。しかしその日ゲイルはスポーツ観戦で不在だった。もともと会場に行く予定だったウェイドに着いていくエンバー。そこで風のエレメントのゲイルと話をしようとするが贔屓のチームが負けそうなゲイルは聞く耳を持たない。そのチームのプレイヤーがブーイングを受けているのを見たウェイドは「彼はお母さんが病気になってから調子が悪いのに酷い」と憤慨し、応援するためのコールを始めて応援席の人々の心をひとつにまとめた。おかげでチームは快勝。
機嫌の治ったゲイルから水漏れの原因を突き止めたら営業停止は取り消すとの言質を得た。

水漏れの原因を調べるため夜の町に飛び出したエンバーとウェイド。エンバーは幼い頃に父親とヴィヴィステリアというどんな環境にも適応できる花を見るために展示してある博物館を訪れたが火は危ないから立ち入り禁止だと入れてもらえなかった過去を話した。それを聞いて「とても悲しい思いをしたんだね」と涙を流すウェイド。ウェイドの高い共感性に驚いたエンバーは「それってどうやるの?」と尋ねる。エンバーは客と心を通わせられずに癇癪を起こしてしまう事を打ち明けた。ウェイドはそれに対し、「怒りはこころが何か伝えたがっているんだと思う」と話した。

水漏れの原因は運河から溢れた水を溜めておく貯水槽が壊れていることだと判明した。そこへ流れ込む大量の水。2人で土嚢を積んでなんとか水を堰き止めた。エンバーをデートに誘うウェイド。無理だと言って立ち去るエンバー。

しかし翌日、ウェイドが言い残した時間と場所にエンバーは現れた。2人で映画を観て、街を歩きお互いを美しいと感じるようになる。触れ合いたいと互いに感じていたが、相手と自分を傷つけることが恐ろしくて一線を越えることが出来ない。

後日また水漏れが起こる。その日にウェイドからエンバーに花が届いた。花の水の中にウェイドが居ると見てとったエンバーは慌てて花瓶を抱えて地下へ。そこでウェイドが土嚢が水を堰き止め切れず、作業員はウェイドが以前溢したセメントのせいで固まってしまい作業が進んでいないことを打ち明ける。そこへバーニーが来てどうして水がここに居るんだと怒り心頭。ウェイドは水道局から来たと話そうとするが、エンバーは水道管の破損の件が父親に知られるのを恐れてウェイドに嘘をつかせる。ウェイドは食品管理局から来たとごまかし、バーニーに熱いファイアーナッツを食べさせられて退散した。

貯水槽の漏れを直すために海で土嚢を作るエンバーと、ウェイド。そこでエンバーは砂からガラスを生み出してヴィヴィステリアのような美しいガラス細工を作った。そこで土嚢の土をガラスに変化させる事を思いついたエンバー。貯水槽の破綻した部分を見事にガラスで覆って見せた。これで解決した事になるかどうかゲイルに確認してみると言うウェイド。

翌日、ウェイドと一緒にゲイルの電話を待つエンバーはウェイドの自宅に招かれた。水だらけで勝手の違う暮らしに戸惑うエンバーだがウェイドの家族は暖かく迎え、食事の席で割れた水差しを直すエンバーに感嘆の声を上げるのだった。
食後に一対一で制限時間内に相手を泣かせるゲームをすることに。水達はすぐに泣いてしまう。ウェイドとエンバーの勝負ではエンバーは「私は泣いたことがないから」と自信満々。ウェイドは一通り御涙頂戴の語りをした後、エンバーとずっと一緒に居たいという真摯な思いを口にする。するとエンバーの目から涙が溢れたのであった。
 そこへゲイルからエンバーのガラス補修で営業所停止は取り消しになると連絡が入る。喜ぶエンバー。帰宅する時、ウェイドの母はガラス加工の会社のインターンをやってみないかとの話を持ちかけた。こころが揺れるエンバーは怒って1人で帰ろうとする。エンバーのバイクに乗り込むウェイド。自宅前まで来て、とうとうエンバーは店を継ぎたく無いという思いを口にする。
 そこへシンダーが追いかけてくる。彼女はエンバーの恋の相手が水だと知ってあとをつけて来ていたのだ。得意の煙を使った恋占いで2人を占うと言うシンダー。2本の棒を立てて、1本にエンバーが火をつける。もう1本をどうすることもできないウェイドにシンダーは「ほらご覧なさい」とエンバーを諦めることを促す。しかしウェイドはエンバーを背に自身の身体をレンズにして熱を集めて見事に火をつけて見せたのだった。2人の煙は交差しながら天高く登って行った。
 そこへバーニーが降りてきた。慌ててウェイドを店から追い出すシンダーとエンバー。
 バーニーは見せたいものがあると、エンバーにエンバーの名の入った店の看板を見せたのだった。看板を見つめ、いつか母から聞いた父がファイアランドから出た日のことを思い出す。父は祖父にファイアランドでの最敬礼をしたが、祖父はそれを返してくれる事はなく家族の縁はそれ切りになってしまっていた。

 エンバーはウェイドに花のガラス細工を渡して別れを伝えようとしていた。ウェイドはそれを許さず、エンバーをヴィヴィステリアが沈む施設に連れていく。そこで待っていたのはゲイル。エンバーの為に水中に入れる空気の袋を作ってくれた。水の中にで初めて目にしたヴィステリアに感動するエンバー。その様子を見つめるウェイドはエンバーへの想いで胸がいっぱいだった。
 浮上した後、2人はとうとう触れ合ってお互いの気持ちを確かめ合うことが出来た。しかしウェイドからの愛の言葉により、エンバーは自分が父から愛されていた事を思い出す。店を継ぐつもりだと言うエンバーにウェイドは自分の気持ちに正直になって父親に話をする事を勧める。するとエンバーは恵まれたあなたにはわたしの気持ちは分からないと激昂するのだった。

 店のリニューアルとエンバーが店を継ぐお披露目の会で代々伝わるブルーファイアの受け渡しをするバーニーとエンバー親娘。そこへウェイドがやって来て、僕達の間には障害がたくさんあるけど僕はきみが好きだと告白し、エンバーが店を継ぐことを引き止めようとする。しかしそれを拒否するエンバー。エンバーとウェイドが深い関係にあることや水道管を壊したのがエンバーであると知ったバーニーは引退は取り消すと怒り出す。その場を逃げ出すエンバー。

 独り、思い出のガラス細工を投げ捨てようとするもウェイドとの思い出の品を捨てきることが出来ない。
 一方ウェイドは傷心旅行に出ようとしていた。

 その時、貯水槽のガラスが破れ鉄砲水となってファイアタウンに襲い掛かろうとしていることにエンバー、そしてウェイドが気づいた。家族を守る為に走るエンバー、エンバーを守る為に走るウェイド。エンバーは両親の危機を救ったが、家の中には大切なブルーファイアが残されていた。家に飛び込むエンバー。そこに、駆けつけたウェイド。2人はブルーファイアを守る為に奮闘するが狭い小部屋で逃げ場を失い身動きが取れなくなってしまう。暑すぎる部屋で蒸発していきながらもエンバーの身を案じるウェイド。そんなウェイドにエンバーはようやく愛の告白をすることができた。

 水が引いた後、小部屋にはエンバーしか居なかった。ウェイドが消えてしまったと絶望するエンバー。彼のことが好きだったこと、店を継ぐのは本意ではなかった事を父親に謝るとバーニーは大切なのは店ではなくエンバーだと抱きしめた。
 すると、水滴が天井から一粒。泣ける話をしたらもっと水が出るのでは無いかと気づいたエンバーは以前ウェイドが話した御涙頂戴話を繰り返す。そして瓶に水が溜まった時、ウェイドが姿を現した。2人はとうとう口付けを交わした。

 エレメントシティから離れたガラス工芸の会社でインターンをするためエンバーはファイアタウンを出る事になった。店は他の人に譲り、それぞれまた別の恋も始まっていた。

 列車に乗り込む時、エンバーはファイアランドの最敬礼をした。バーニーはそれに最敬礼で応じた。

fin

【以下感想】
とても見応えのある作品でした。

癇癪をコントロール出来ない火のエレメント、泣き虫な水のエレメントというコミカルなキャラ設定かと思いきやエンバーには自覚出来て無い押し込めた感情があって、ウェイドにはちょっと心配になるくらい高い共感性があって、その2つの個性がぶつかったときに引き起こされる化学反応(ケミストリー)を存分に味わえました。

親の期待に応えたくて頑張るエンバーは良い子だし人の気持ちを思いやれるウェイドも良い子。

移民である火のエレメントへの差別が至る所で表現されていたがうまいと思ったのが共通語が上手だとウェイドの家族にエンバーが褒められた時にエンバーが「生まれも育ちもここですから」と言う場面。これは多くの移民2世3世が感じていることなんだろうなと。見た目が違うことで母国語では無い共通語を頑張って覚えたんだねと言われてしまう。暗に、君はここの人間では無いでしょうと言われてしまう疎外感。そしてエンバーに言葉を返されたウェイドの家族はしまったという顔をする。言ってしまってから失礼に気がつくのだけど、それを謝るのもまた失礼な気がして謝れない微妙な雰囲気がよく表現されていた。

ラストの最敬礼はこの映画の核となる「心が何を求めているか知る」というテーマをビシッと決めてくれて最高でした。バーニーにとって娘に自分の店を継がせることが1番大切なのではなくて、自分が父親にやってもらえなかった「子供を認めて送り出す」と言う事をエンバーにやってあげるということが何よりも大切だったんだとわかるシーン。胸に迫るものがありました。バーニーは自分がされて嫌だった事を娘に繰り返さなかった。このシーンだけでも映画を見た価値があったと思います。

美しい映像は想像力を掻き立てられて目を奪われた。ただ、惜しむらくは「人種差別の問題を擬人化キャラクターを使って表現する」というのがズートピアをどうしても思い出してしまい、水生動物が使う水のエレベーターのアイディアはズートピアの方が良かった(新鮮味もあったし)とか考えてしまう点。

あとポリコレ表現は恋占いに来ていたカップルが男性同士で1人は車椅子とか、ウェイドの姉妹に彼女が居たりとかやっぱりそういうのは入れていかないとだめなのかなと「ポリコレのために入ってるのでは?」と邪推してしまうのをやめたいです。自分が変われば良い話かもですが。
個人的にりんごをむしり合うカップルがよくわからないけど楽しそうで大好きです。映画を見た後のカップルが「むしっちゃうぞ?」っていちゃついてると良いなと思います。

火水風土が四元素と呼ばれた時代は遠く
現代科学では火はプラズマ、水は液体、風は気体の動きで、土に至っては様ざまな物質の複合体と並列にするには無理がある印象も少しある。
このまま行ったら音と光の物語だって生まれるかも……流石に抽象的過ぎるかしら。

雑感ですが、どうして最近のディズニーピクサーヒロインはよく喋り、よく動き、苦笑いをし、愛想笑いで場を切り抜けようとし、親や周りからのプレッシャーと自分の能力と本当にやりたい事で葛藤するのでしょう。そこに現れるのは白馬の王子様では無く欠点がある愛すべき理解ある彼氏くん。それが現代に求められている御伽話ということなんでしょうか。
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