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ナショナル・シアター・ライブ 2023 「かもめ」のumisodachiのレビュー・感想・評価

3.3
ロンドンのハロルド・ピンター劇場にて、ジェイミー・ロイド演出の『かもめ』を鑑賞。『ゲーム・オブ・スローンズ』のエミリア・クラークがニーナ役でウェストエンドデビューを果たしている。

ほぼ何もないセットに、部屋着のような衣裳を身に着けた裸足のキャストたち。小道具は椅子のみ。ほぼ動くこともない(たまに観客に背を向けて座るくらい)斬新なステージングで、まるで本読みリハを見ているように物語は進行していく。

本来ならば序盤にあるはずの劇中劇のシーンの直後からスタートするので、観客が目にするのはほぼ問答のみ。そこにあるのはロシアらしい雰囲気でも、田舎ののどかな空気でもない。芸術や名声や愛情についての哲学的ともいえる対話だけだ。

設定は現代に変更されており、セリフもちょいちょい現代テイストになっている。映画のタイトルが出てきたりね。とはいえ、全体としての流れは変わらない。視覚的な変化に乏しい分、『かもめ』がどんな作品なのかを全く知らない人が観ても入り込めないのではないかと思う。明らかに知っている人に向けて作られている。

とまあ、こんな感じで超斬新な演出だったわけだが……微妙!!微妙すぎた!

物語の中心に若者2人が据えられているのだが、彼らがキツい。まず、ニーナ役のエミリア・クラーク。美しい容姿を持ち、都会と名声に憧れる女の子なわけだが、いかんせん華奢すぎる。細身のジーパンにシンプルなカットソーという衣裳では、美貌よりも貧相さが目立ってしまう。しかも一本調子な表情とセリフ回し。世間知らずでちょっとアホというキャラクターのせいもあるのだろうが、彼女が喋り出すたびにイライラしてしまうのがどうにもねえ。空気の読めなさは上手いんだけど、抑揚に乏しいせいで「同じことばっかり何度も何度も言うなよ!」と思ってしまった。

ニーナは前半と後半でかなり環境が変わる人物のはずなのに、その変化がまったく見えなかったのもいただけない。ずっと弱弱しくて、ずっと儚くて、ずっとアホっぽい。舞台にどれだけ慣れているのかもあると思う。ああいう演出だと経験はかなり重要だなと感じた。

もうひとりはコンスタンティン役のダニエル・モンクス。鬱々とした面を強く出したキャラクター設定は良いと思ったし、彼を中心に据えた構成も理解できるのだが、ボソボソ喋るから聞き取れなくて!私のリスニング能力では難易度高すぎるよ!

一方で、素晴らしかったのはイリーナを演じたインディラ・ヴァルマ。文句なしに魅力的でエネルギッシュ。傲慢さも、繊細さも、執着心も、子どもへの愛も、何もかもを見事な緩急で演じ切り劇場を支配していた。特に、コンスタンティンに対して「言ってはいけない言葉」を放って深く後悔する流れでは思わず涙が……彼女がいなければ作品として成立していなかっただろうと思うくらいの存在感で唸った。

その他も、マネキンみたいな掴みどころのなさと奥行の両方を感じさせたトリゴリンを演じたトム・ライス・ハリスや、イラつきをコメディリリーフに発散させたマーシャを演じたソフィー・ウーなど良かったキャストもいたのだが、いかんせんエミリア・クラークが話し出すと眠くなるという現象に耐えられず。特に終盤はインディラ・ヴァルマが前面に出てこないこともあってかなりキツかった。

あと、「Extraordinary」などキーとなるワードを効かせた脚本にしているのは伝わるのだが、それが上手く作用しているようにはあまり感じられなかった。なんだか惜しいんだよなあ。なお、休憩終わりでいなくなった観客はけっこういた。

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