桃田はぢめ

その夜の侍の桃田はぢめのレビュー・感想・評価

その夜の侍(2012年製作の映画)
4.0
セリフの言い回しや掛け合い、間のとり方がやたらと演劇のようでした。
例えば星さんと警備員の「凄いね、外。これ台風何号だろうね」「なんか私、こういう雨の日って好きです」「えっ?………やっぱり黄色いソファが、あるといいね。きっと」このすれ違う的はずれなやり取り、斜め上の会話。木島と小林が健一の嫁を轢いて車から出てくるまで、久保が健一からグローブを受け取るまでの間。くどいというかシュールというか。絶妙っちゃ、絶妙。この空気感、余白に耐えられない人はいると思います。秀逸と捉えるか意味不明と捉えるか、好き嫌いがハッキリと別れる映画ですね。

個人的な一番の疑問は健一はどうしてデリヘルを使ったか。私は女だからかな、その心情が何回考えてもよくわかりませんでした。そりゃあ、勃たないでしょう。だったらいっそのこと、骨壷をテーブルに置きっぱなしにして、ブラジャーを持ち歩き匂いを嗅ぐ、死んだ愛する嫁が忘れられない男が突然デリヘルの女を今まで何だったのかと思うぐらいがむしゃらに抱いた方がサイコパスな異常者感が出てよかったかもしれない……と思いました。これこそ意味不明か。
だって、あんなに普段知的で紳士な優しい表情の堺雅人が汗ばんだおでこに前髪を張りつけてティアドロップの眼鏡をかけた小汚い中年男、交番に貼ってありそうな"いかにも"な風貌になっているのだから、もったいないじゃない。
どうしても登場人物、話、全体的に中途半端な気がしました。……星さんは警備員の家でレディースの服をピチピチと着たまま、どうなったのかなあと考えています。

「バーベキュー!バーベキュー!」と叫ぶ山田孝之にガソリンをぶっかけられる田口トモロヲにそそられ見たのですが、結果として見て正解でした。フルボッコにされて顔面傷だらけの情けないトモロヲが見れて嬉しかったです。一人でいるのが寂しいからという理由で自分に冤罪をかけて燃やし殺そうとした相手にくっついて歩くって、例えるならDV彼氏からどうしても離れられない彼女というところでしょうか。木島のことを「最低な人間。生きる価値のない人間。もはや人間なんかじゃない」と言うくせについて行ってしまう。無茶言われてされるけど、突き放されないから。星さんと木島の間には典型的なDVサイクルができてます。依存体質な星さん。そんな星さん、私の中の田口トモロヲが演じた好きな役トップ10には入りそうです。

長くなりましたが、結論、私からすると、かなり好みの作風でもう一度見たいなあと思うくらいにはおもしろい、というか好きだと感じました。独特というか、かわってる作品が好きだからです。音楽も美しいです。


でも、食べ物を粗末にしてはいけません!

以上、お粗末さまでした。





一通り書いてから監督のこと調べましたが、やっぱり劇作家らしいですね。わかりやすく滲み出てました(笑)