このレビューはネタバレを含みます
下津優太による同名短編小説を著者本人が監督した作品である。
清水崇がプロデュースしているので心霊ホラーなのかなと思っていたら、世界は理不尽な法則で成り立っているということを突きつけてくる作品になっている。現実的ではないが妙に納得できてしまうようなモチーフや演出で、皮肉に満ちた面白いプロダクションだと思う。導入は『ヴィジット』だが、なんかどっちかというと『ゲット・アウト』みたいな構造をやりたいけど日本じゃ人種の設定は無理だからわかりやすく世界の不均衡というテーマのおとぎ話にした……という印象を受けた。とにかくシャマランとかジョーダン・ピールとか、そのへんの影響があるのかなという気がする。
一番の見所は祖父役の有福正志と祖母役の犬山良子の演技で、温和な2人がどんどん奇妙な行動をとるようになっていく様子を地味かつ異様に演じていて、目が離せない。この2人の演技のおかげでセントラルアイディアが提示される中盤以降の面白さがしっかりと担保されていると思う。
有福や孫役の古川琴音、幼馴染役の松大航也以外のメインキャストは福岡で活躍している俳優で構成されているらしく、皆とても好演しており、全国的に有名ではないキャスティングによって読めない展開になっているのが効果的である。『夜を越える旅』もそうだが、地方で活躍している作家や俳優が中心のプロダクションの好例になればいいなと思う。
苦しみの果てに主人公の女性がある種の開放を得る、というのは最近のホラーの特徴だが、ただ後半はちょっとエピソードがとっちらかった感じになってしまっていて、孫の葛藤の描き方がぼやけているように感じた。最終的に幼馴染を犠牲にするのであれば、そこがあんまり強調できていないので面白みが減っている気がする。それと孫が家を出たり帰ったりする下りが何度もあるのはもうちょっとなんとかならなかったのかと思う。また、これは完全に個人的な趣味だが、状況が悪化していく様子だけを提示するような作品はあまり面白いとは思わないので、お話自体はそんなに好みではなかった。
