櫻子の勝手にシネマ

みなに幸あれの櫻子の勝手にシネマのレビュー・感想・評価

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
3.8
地球上の不幸の数と幸せの数は同じで、プラマイ0になるようにできているという都市伝説から着想を得た本作。
『第1回日本ホラー映画大賞』で大賞を受賞した下津優太監督の長編デビュー作だ。 
脚本は『ミンナのウタ』の角田ルミ。
清水崇が総合プロデュースを手掛けている。


「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」という因習をテーマに、恐ろしいドラマが繰り広げられる。

本作はジャンルで言うと『村系ホラー』だろうか。
『ミッドサマー』や『犬鳴村』『女神の継承』なんかも村系ホラーに属する。
村の狂った因習に主人公が巻き込まれていくパターンだ。
最近のホラーはこういう土着信仰ものが多い。もしかして流行り?

本作の土着信仰の舞台は九州の山がちな田舎である。
信仰の内容は上記に記載したとおり。
もっと具体的に言うと、自分たちが幸せになるために誰かを犠牲(生贄)として、目と口を糸で縫い合わせて塞ぎ、家の中に監禁しておくという恐ろしい慣習を持っているのだ。

面白いと思ったのは、登場人物たちに名前がないこと。
劇中でも不自然なほど名前を呼び合っていない。
主人公(古川琴音)ですら単なる“孫”だ(笑)

犠牲者が生贄になる前?のクセ強ダンスがめちゃくちゃウケる(笑)
おそらく孫の想像だと思うが何回見ても笑える。

本作は幽霊の存在は出てこない。
けれど、背筋がじんわりと寒くなるような怖さがある。
それは、一見普通に見える人々の常軌を逸する行動に対して「何かがおかしい」と思う感覚だろう。
得体の知れない恐怖は人間の本質的な恐怖を呼び覚ます。

次いで、一番謎が多い祖母の存在。
妊娠できる年齢ではない祖母が懐妊し、家族総出で自宅出産する様はなんとも異様だ。
これはあくまでも個人的な考えだが、祖母の産んだ赤ん坊の父親は祖父ではないだろう。
“種付け”は“生贄”だと推測できる。

余談だが、“山姥”はいくつになっても妊娠できる特徴を持っているそうだ。
また、“山姥”はもともとは山の神霊だとか、山の神に仕える巫女が妖怪化していったものが起源だとか言われている。
山岳信仰のある土地では、恐れらつつも崇拝される側面もあるらしい。

本作の祖母が“山姥”の化身だと仮定してみると辻褄が合う箇所がいくつかある。
仮に、本作で描かれるあの恐ろしい土着の信仰ルーツは、“山姥”の化身である祖母に捧げる生贄の儀式だとしたら…
家族たちの中で唯一、目から血を流さなかったのも祖母だけというのも不思議だ。

主演の古川琴音の演技が良かった。
頬のピクピクが恐怖に一層拍車をかける。
和製ミア・ゴス誕生か?(笑)