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霧の淵のyyyymmddのレビュー・感想・評価

霧の淵(2023年製作の映画)
3.9
エンドロール、「エグゼクティブプロデューサー 河瀬直美」の文字が出てきてうっ、となる。制作の奈良国際映画祭やNARAtiveという映画制作プロジェクトを率いているのが河瀬直美のようだ。そして、本作は村瀬監督が卒業制作をきっかけにNARAtiveのプロジェクトに選出され、川上町を撮影地として指定されたことから始まったようだ。

ただ、肝心の映画の中身は、オリンピックや万博に関わっている人間の支配によってできている映画という印象はなかった。少なくとも日本を不必要に美化した自己満足の映画ではない。また、20代半ばであろう村瀬監督がすでに自分が撮りたいものを明確にして映画を作っている感覚があった(まさかそんな若い監督だと見ている間は思わなかった)。

ちょっと大人びたようにも見える12歳の少女は、しっかり者で物事を冷静に見ているというよりは、どこかぼんやりとして自分をどう表現したらいいのかわからない若者として描かれる。親の旅館を手伝うでもなくただひたすら外の景色を眺め続け、この先自分がどうなるかもわからずモヤモヤを抱えながらも何も言葉にできない。そんな自分のアイデンティティをうまく掴めない若者の姿と山間部の村の景色の途方にくれるような広大さがうまくマッチしていた。
物語としても起伏をほとんど作らない淡々とした作品ながら、自分の良き理解者である祖父の不在によってわずかながら、でも確実に変化する若者の姿を描いているのが良かった。自分の親が突然誰かわからないような他人のように見えてしまうシーンなんかも好きだ。

撮影地などの縛りがあるプロジェクトの中でも確かな意思を感じる作品だった。次回作は縛りなしに監督が撮影したいと思ったものを見てみたい。
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