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霧の淵のハンスウのレビュー・感想・評価

霧の淵(2023年製作の映画)
3.6
約1ヶ月半ぶりの劇場鑑賞がチョー地味な日本映画。たまには日本の新人監督の作品も観てみたいって思ったんだけど、奈良の山奥でホームドラマっていったら真っ先に「萌の朱雀」を思い出すなあって思ってたら、その監督だった河瀬直美が今作のプロデューサーをやってました。どうりで🥸……。

作風もまるで河瀬監督を踏襲するかのようなタッチ。いや、それは言い過ぎかもしれないけど「萌の朱雀」に限っていていえば共通する点は多々あると思います。とても現代の20代の若者の作品とは思えない。それから部分的にドキュメンタリータッチや小津風タッチも多用した撮影だったんじゃないでしょうか。小津風とは、ぱっと見は小津安二郎っぽいんだけど、古い家屋の部屋とか廊下なんかのカットで、カメラがローアングルに設定されているわけじゃないから小津とは違うと言えば違う。

二十数年前の「萌の朱雀」は、まあ、わたしは好きではなかったですけど、でもヒロイン役だった尾野真千子さんをこの世界に導いたという点が大きな功績だろうなぁって、偉そうに思ってましたね 🥸 今作「霧の淵」も若いヒロインちゃんが登場しますけど、どうだろう、将来的に俳優として成長するかどうか、楽しみなところです。

奈良の山奥の、衰退する一方の過疎の町、たまにしか客が来ないような旅館、そんな舞台で過ぎゆく時間の流れがこのヒロインちゃんのフィルターを通して映し出されていました。それはいったいなんだろうって思うと、決して美しい風景を単に切り取って見せるとか、そういう単純なことではもちろんないと思います。

過疎の町というのは、かつては隆盛を誇っていた時代があったはずなんですよね。日本はどこもかしこもそうだったはずです。根本的には、高度主本主義社会が進むにつれて路面をにぎわしていた温泉街や商店街がどんどん衰退していった。また後継者不足もあって過疎化も進んだのでしょう。

そういう、かつてあったはずの町の原風景へのある想いがこの映画にはあったような気がします。ヒロインちゃんが生まれる前の町の風景、それはどんなだっただろうって彼女は思いを馳せたかもしれません。この町にとどまることか、それとも、この町を出ていくことなのか、何が希望なのかわからない状態で映画は進んでいく。きっと誰も答えを出せないような問題なのかもしれない。小学生だったヒロインちゃんが中学に進級したところでこの映画は終わる。振り返る彼女の瞳に何が映るかは、観た人の数だけ思うことがあるでしょう。
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