Jun潤

波紋のJun潤のレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
3.9
2023.05.26

磯村勇斗出演作品。
家族と、今話題の宗教の危うさや不審さを掛け合わせたような感じ。

2011年、福島第一原子力発電所で起きている事故の様子が連日取り沙汰され、水道水や雨水に対する根拠のないデマが広がっている中、須藤家は普通に暮らしていた、須藤依子の夫・修が突然失踪するまでは。
数年後、息子・拓哉は九州に進学しそのまま就職、依子はパートタイムで働きながら、新興宗教“緑命会”を熱心に信仰していた。
そんなある日突然、夫が帰宅し、癌が進行している事実を依子に告げる。
それからというもの、緑命会の水を飲んだり勉強会に参加したりしているのに、久しぶりに一緒に暮らす夫やご近所さん、スーパーに来るクレーマー、更年期障害などのストレスにより、依子の心の水面には波紋が広がっていく。
小さな波紋はやがて荒波を巻き起こす。

ほうほうこれはこれは。
亭主関白ならぬ関白女房?かかあ天下ともまた違うような、、。
夫は嫌い、義父の介護は面倒、息子に対しては過保護で、息子の恋人は認めない。
そんな現代における最もオーソドックスな女房像の一つでもある姿の須藤依子を軸に、現実にもある些細な苛立ちや人同士の対立、隠したい事実、それら一つ一つは小さな波紋だとしても、波紋同士がぶつかり合い反発し、徐々に大きくなって取り返しのつかなくなっていく様を、時にリアルに、時に軽快に描き出していく作品。

前半は突然家を出て突然帰宅したにも関わらず。悪びれもせずに我が物顔でいる夫を嫌悪する依子の表情と、数年ぶりに帰ると新興宗教にハマった妻によって様変わりしてしまった家と生活に驚愕する修の表情を交互に描いていて、どちらの立場に立っても二人とも異質な存在に見えてしまうという巧妙な構成をしていました。

依子が新興宗教にハマった直接的な原因は明言されませんでしたが、緑命会のリーダーや先生よりもスーパーの清掃のおばさんの言葉の方に縋ってしまうという、人間全体に言える弱さというか、無宗教が多い日本人だからこその移り気加減というか、おばさんの言うことがなかなかに物騒だしなかなかに的を射ていたこともあって、よく描かれていたと思います。
また、おばさんの言う通りに自分の身の回りに起こる出来事を全て受け入れるのではなく多少反抗しようとする様と、緑命会の教え通り魂を高次元に上昇させるため他人に尽くそうとする様が、交互ではないのに明らかに対立しているように観せてくる演技と脚本でした。
そしてそんなおばさんの言っていることと家の様子の悍ましい違いや、おばさんが縋っているものの切ない正体を目にして、波打っていた依子の心の水面は落ち着いたようにも見えましたが、また波紋は立ってしまう、人生とはそんなものなのかもしれないと思わせる描き方を全体的にしていました。

夫が失踪し、丁寧に手入れされた庭の花を引き抜いて枯山水を作った。
夫が死んだ時には、枯山水を踏み荒らしてフラメンコを情熱的に踊る。
人との出会いや関わり、別れは面倒ごとばかりだけれど、人生には必要不可欠なものなのだと感じました。
Jun潤

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