Jun潤

最後まで行くのJun潤のレビュー・感想・評価

最後まで行く(2023年製作の映画)
4.6
2023.05.21

藤井道人監督・脚本×岡田准一×綾野剛。
つい先月『ヴィレッジ』を観たばかりだというのに、もう藤井監督の最新作を観れるとはなんという幸せ。
最初の頃の予告編ではなにやらクズ行動をする岡田くんに、怪しい綾野剛という感じでしたが、本予告では二人が本格的に対立し、ノンストップアクションスリラーをクラシックに乗せるというまたハイテンション邦画な予感。
原作は2014年に韓国で制作された同名邦題の映画で、日本の他中国とフランスでもリメイクされた作品。
これまでのゴリゴリ社会派ドラマが多かった藤井監督にしては珍しいジャンルな気がしますが、もう期待値は振り切ってますね。

12月29日。
土砂降りの中、刑事の工藤は危篤の母の元に向かって車を走らせていた。
同じタイミングで刑事課の課長から、工藤が受け取った仙葉組からの裏金の件がマスコミにリークされたことを聞く。
直後に母が亡くなったという連絡を受け、気が動転した工藤は車の前に飛び出してきた男に気付かず、撥ねてしまう。
突然の出来事に加え、すぐ目の前をパトカーが走っていたことから、工藤は咄嗟に死体を車に積み込む。
しかし車を走らせた直後に検問に引っかかり、同じ署の交通課の職員に難癖を付けられ車の中を見られそうになる。
そこに現れた監察官の矢崎によって難を逃れた工藤だったが、その日のうちに署に来るように釘を刺される。
病院に到着し母の遺体と対面した工藤は、母の遺体を病院から遺体安置所へ出さなければならなかったことを理由に、署に行かずに済んだが、刑事課の職員たちは裏金の件で安置所まで来てしまう。
遺体を安置所の屋内に隠し、またも難を逃れた工藤は、母の遺体と共に男の死体を火葬することを思いつく。
翌日工藤は署に出勤し、矢崎から裏金の件について、よくあることだから揉み消すと言われるが、他に何か隠してるのかと問われても、何もないと誤魔化す。
その後、工藤の元に生前の母と懇意にしていて、工藤に裏金を渡した組長の仙葉が現れる。
仙葉の口から語られたのは、とある寺に中央の役人から集まった裏金を保管している金庫があり、その金庫の鍵を尾田という青年が持ち逃げしたという事実だった。
次の日、母の葬儀前に署に出勤した工藤は、自分が撥ねた男こそ金庫の鍵を持ち逃げした尾田だったことを知る。
そして母の葬儀直前、工藤の携帯にメールが入る、「知っているぞ。お前は人を殺した。」
メールを見た直後、電話と共に工藤の前に現れたのは、監察官の矢崎だったー。

12月28日。
矢崎は寺の金庫の鍵を持ち逃げし、姿をくらました尾田を探していた。
矢崎の婚約者の父であり、寺に金を預けている中央とも繋がりのある植松から、尾田を探し出して消すよう命令を受ける。
矢崎に尾田から連絡が入るが、尾田は矢崎を煽るだけ煽り、居場所を吐く気配もなかった。
寺の金庫を開けるには鍵だけでなく自分の指紋も必要であることを知っていた矢崎は、仙葉に尾田の居場所探しを依頼した後、自分の結婚式に出席する。
余興として会場の前で自分の手形を取られた矢崎だったが、会場の中でも妻と共に手形を取られ、先ほどのスタッフが尾田の仲間であったことを悟る。
結婚式の直後、仙葉から連絡が入り尾田の居場所を襲撃する矢崎だったが、矢崎に追われ逃げ惑う尾田は突然来た車に撥ねられてしまった、工藤が運転する車にー。

うわー!またまたまたまたやってくれました藤井監督ゥゥ!!
藤井監督作品の好き加減が留まるところを知らなすぎてもはや怖すぎる。

今作こそまさに全場面伏線だらけ、1秒も見逃すことのできないノンストップ・クライム・アクション・スリラー。
前半は工藤という運がないのか悪運が強いのか、次から次へとトラブルに直面するも、刑事だからこそっぽい対応力でもって難を逃れていきますが、決してスマートに解決するのではなく、気弱そうな表情にビクビクした態度で場当たり的な対応をする姿に、なぜだか応援してしまいたくなったり、こっちまでハラハラしたり。
さらに後半で描かれるのは、前半で狡猾に執拗に工藤を追っていたはずの矢崎が、金と権力に溺れていて、上からの命令に逆らえず泥臭く尾田を追っていく姿。
それもまた、スマートに感情を表に出さず冷酷な姿のまま追うのかと思いきや、頬が引き攣りイラつきが表情に出てしまっている人間臭い姿。
そんな工藤と矢崎の時間軸がリンクし、尾田の遺体と誘拐された娘を巡って対立し、金庫の金を間に挟んで対決するボロボロの二人。
終盤までの展開で工藤も矢崎も目の前の出来事にただただ対応するしかない人間臭い姿から、二人の対面を経て工藤は娘を救うダークヒーロー、矢崎は植松すらも殺して金のために手段を選ばないスーパーヴィランとなり、ラストバトルはお互い何の利害もなくただただ目の前の相手を殺そうとする人間ですらないヤバさが画面いっぱいに溢れていました。

今作もまた藤井監督作品の例に漏れず、警察とヤクザの癒着や、宗教を隠れ蓑にした中央の闇金と、社会派の部分も見え隠れしていました。
また、工藤は母の葬儀、矢崎は自分の結婚式と、ストーリーの端々で冠婚葬祭に関わる色々な面倒ごとが進んでいく裏では、お互いがヤバい事態に直面しているという、シリアスな笑いが滲み出ていました。
そして藤井監督のドラマシリーズ『アバランチ』にも出ていた綾野剛の無骨なアクションと、相変わらずの岡田くんのプロ級アクションの掛け合わせ。
ステゴロアクションにガンアクション、どちらも死んでいてもおかしくないほどボロボロな二人が組み合う泥臭い殴り合い、この場面はどこか『紅の豚』のラストっぽさがありましたね。

今作はやはり何と言っても主演二人の演技がとても良い!
若かりし頃のキラキライケメンな岡田くんは何処へやら、武道を極めたことによって出ていた表情の濃さも今作では何処へやら。
クズ行動を連発する情けないダメ男からの、娘のために戦う父親としての姿、そして命の危機に瀕しているにも関わらず、戦うことを楽しんでいるかのように高笑いする姿へと、色んな岡田くんの表情が見れました。
今作で岡田くんは藤井組初参加ということで、次回作にも出てほしいですし他の監督作品でももっと色々な表情を見たいと思わせてくれました。
今作の綾野剛はもう原点回帰といった感じでしたね。
近年は落ち着いた大人の姿を見せていたり、どうしようもないダメ男にしても最初の頃の綾野剛にはどこか一歩足りていない印象の演技をしたりしていたように思います。
しかし今作で見せてくれた表情は、最初期の綾野剛を思い出すようなヤバさMAXの怪演・狂演の超名演でした。
前半の落ち着いた姿もさることながら、後半の頬をピクピクさせている表情もとても良かったですし、そこからの無表情で拳銃ぶっ放す姿こそが矢崎の本当の姿であり綾野剛の真骨頂のように感じました。
しかしそこで終わることはなく、不死身かの如く死なずに工藤を追う矢崎のニヤリ顔は、恐怖を通り越してもはや綾野剛のさらなる魅力を捻り出したかのような演技でした。

今作で印象に残ったのはテロップの出し方でしょうか。
日にちを見せることでノンストップものには欠かせない時間の経過を出しつつ、藤井監督の持ち味の一つでもあるタイトルクレジットをいつ出すのか今出せ今出せと思わせ続けてきました。
そこに続いて家族の無事も権力への執着ももはや関係なく、大金ももう何処にもないのに、目の前の敵を殺すためか、矢崎の提案通りここから巨大な権力へ立ち向かうためか、朝焼けの中お互い狂った笑顔でカーチェイスしながらまさに『最後まで行く』姿で〆とタイトル。
本当に最初から最後まで脳汁出っ放しの大傑作でした。
Jun潤

Jun潤