たく

最後まで行くのたくのレビュー・感想・評価

最後まで行く(2023年製作の映画)
3.6
先に観た韓国のオリジナル版が面白く、映画館で観逃した評判の良い日本リメイク版で結末がどう描かれるか興味あって観賞。エンタメとしては充分面白かったんだけど、「新聞記者」の藤井道人監督ということで警察組織の腐敗にもっと踏み込んでいくのかと思ったら、結末がオリジナルに比べて全然甘くてちょっと拍子抜けした。岡田准一としては最近珍しく情けない役がなかなかハマってて、綾野剛が少々ステレオタイプながらも追い詰められた男の焦りを上手く演じてた。車に轢かれた死体の顔が磯村勇人に似てて、いやこんなチョイ役で出るはずないよなーって思ってたらまさかの本人。オリジナル版と違い彼が重要な役回りとして活躍するので納得した。

母の葬儀に向かう刑事が男を轢き殺してしまう冒頭から、ほぼオリジナル版と同じような展開を見せていく。大きな違いは事件の背後にヤクザが絡んで来ることで、これは「ヤクザと家族」の藤井監督ならではという感じ(しかも綾野剛が主演)。遺体の処理方法について、キリスト教の韓国らしい「土葬」と日本で一般的な「火葬」という違いがあり、火葬場でいったん火葬炉に入った遺体を取り出すというくだりはストーリー上必要だとしても相当無理があると思った(実際にそんなことできるわけがない)。あと、オリジナル版では金庫の鍵が死体に埋め込まれた物理キーだったのが、日本版では金庫を開けるのに彼の指紋認証が必要という設定で、矢崎が死体そのものを取り返したいというより強い動機になってたのが上手い改変だった。

クソ人間の後にそれに輪をかけたクソ人間が登場するというのがオリジナル版の秀逸なプロットだったわけだけど、日本版では矢崎が県警の本部長の手下に過ぎず、死体を探し出さなければ人生が崩壊するという切羽詰まったものを感じさせ、クソっぷりが薄まってた感があった。オリジナル版との違いに最も興味があった結末は、期待しつつも半ば予想通りの腰砕け。「警察が事件をもみ消して全てなかったことにする」という組織の闇の深さが描かれず、工藤と矢崎が同じダメ人間としてついに通じ合うに至ったかにも見える幕切れも、何だかなーという感じ。本作の方を先に観ていたら、また違う感想だっただろうね。
たく

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