ふじこ

ラスト・リクエストのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

ラスト・リクエスト(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

死刑囚の最後の食事のリクエストに応えて30年間働いてきたマギー。
しかしテキサス州でのプログラムの終了が決定され、マギーの30年間の仕事も終わり。
公園で銃を乱射し大勢の子供とその母親が亡くなった事件の犯人の処刑を前に、犯人と自身の仕事の最後の料理を作る。


いやぁこれは…宗教観や倫理観等、色んな考え方があるよね。
最後の仕事では料理のリクエストがなくて、でも出てきたら嬉しいだろうと考えてローストチキンやマッシュポテトやパイ等、手の掛かる料理を作る。
手伝いに来ていた若い女性はそもそもプログラムにも反対だし、犯人に殺された子供たちは最後の食事なんて選べる余地はなかったのにというスタンス。
若い女性の言う事も分かるんだけど、マギーが捉えているのは"犯罪者への奉仕"ではなくて、ただ死を待つためだけに並んだ人間へ出す最後の食事って意味合いだけだったんじゃないかなぁ…。
彼女はキリスト教徒だったようだし、その宗教観も勿論あるんだと思うけど。
それと同時に、30年もやってきた仕事への誇りなんかもあるかも知れないし、これは一つの専門的な仕事に長年打ち込んできた人じゃないと分からないのかも知れないなぁ…。わたしにはそんなものがないのでそこは分からなかったわ。

引退日の今日までは、あの擦れてしまった刑務官が料理を下げる前に帰宅していたから食べられたのかそうじゃなかったのか知らなかったけれど、彼女が祈りを捧げた食事が手を付けられる事なく戻ってくるのを黙って眺める。
ラストシーンが一番秀逸だったと思うんだけど、一人きりの家で食卓につき、彼に作ったのと同じローストチキンを皿に乗せて食べようとして手が止まり、複雑な表情を浮かべて終わる。
あぁ彼女は何を想ったんだろうなぁ…って。
彼女の料理人としての一つの終わり、最後の仕事の成果の結果、そして裁きを受けてあの世へ旅立つ男。

食事を摂る って事は、生きる事。
そう考えるとなおさら複雑な気持ちになってしまう。言ってしまえば生きる為の活力となるエネルギーの摂取はもう必要ない訳で。

死刑囚になった事も、明日処刑されるような自体になった事も、彼らの為に30年間食事を作る事も、彼らに祈りを捧げるような事もなかった人生だから、誰の気持ちも本当には分からないんだけど。
マギーの気遣いも祈りも無駄ではないし、お手伝いの女性や刑務官の男性の思っている事も間違いではないし、実際に死刑に処される男が何を思って犯罪を犯したのかも、何を思って死んでいくのかも分からないけど、"分からない事をどう考えさせるのか"という点で非常に優れた作品だったと思う。

もし処刑されるのが、マギーの親しい人を殺した人間だったら?
もし処刑されるのが、マギーの親しい人だったら?
どこにも答えなんてないんだと思う。
それでも、職人魂みたいなものを感じさせるマギー役のデイル・ディッキーは素晴らしかった。
ふじこ

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