よしまる

マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザインのよしまるのレビュー・感想・評価

3.0
 実はインテリアファブリック、オーダーカーテンのお店を20年以上やっていて、マリメッコのテキスタイルに魅せられて取り扱うようになってからもかなりの年月が経つ。うちみたいなちいさなお店でも量販店に潰されずにやってこられたのはデザイナーさんの素晴らしい作品あってこそ。

そんな思い入れのあるブランドで、しかもそこで活躍した伝説のデザイナー、マイヤイソラの伝記となれば観ないわけにはいかない。創業者アルミを描いた「ファブリックの女王」が演出過多な演劇ドラマだったのに対し、こちらは完全なドキュメンタリー。邦題にあるように、旅と恋ばかりしていたマイヤの独創的なデザインの源にちょっと触れることの出来る、貴重なフィルムとなっていた。

印象的なモノローグがある。
「波の浮き沈みを愛すること
海の深いやすらぎに浸ること
自分も全ての一部だと理解することで
コントロールできるのです」

自由奔放に生きてこそ、そしていくつもの恋愛を糧にして生み出されたデザイン。アルミは事前に売り先を想定してそれに見合ったデザインを作らせようとしたけれど、マイヤはそれを良しとせず、まずデザインを提供し、誰が気に入りどう使うかは顧客に委ねたというくだりがおもしろかった。

一方、アルミが「ファブリックには決して花をプリントしてはいけない。花はそれだけで美しいのだから、花のモチーフは本当の花には勝てない」と禁じると、逆らうように花を図案化し、かのウニッコを大ヒットさせたという、規則や束縛を嫌ったマイヤを象徴するエピソードについては本作では軽く触れられた程度でがっつりは出てこなかった。というかマリメッコとの関係についてはあまり深く掘られてない気がする。一応エンドクレジットのサンクスには名前が載っていたものの、全面協力という感じではまったくなかった。

デザイン、アートという側面で言うと、マイヤの残した、マリメッコだけでも500は超えると言われているデザインがいかにして生み出されたのかをもっともっと知りたかったのだけれど、意外に旅して恋してという人となりのな歴史に終始してしまい、デザインそのものへの言及はごく一部に限られたのは少々残念。

娘のクリスティーナの盗作事件(その後マリメッコを追放されている)は当然オミットされ、さしたるイベントもないまま淡々と。ぶっちゃけ相当コアなファンでなければ取り立てて語るべきニュースもないので、映画としてはいくらがんばってもこのような点数に。

ハンドプリントの版を分解してアニメートするのは見ていて楽しいし、ヤンソンとトゥーティッキとお茶してたなんてエピソードも新鮮。

なにより恋多き女として創作の活力源が恋愛で、人との出会いから創造力を羽ばたかせることを「人を食べる」と表現するのは少し怖いくらいだった。娘もまた「母にとって恋は創作活動のひとつでした」と語る。

クリエイターにとって恋が必要不可欠であることは、奇遇にも同年に公開された同じフィンランドのデザイナーの映画「アアルト」でも証明されている。