コマミー

シック・オブ・マイセルフのコマミーのレビュー・感想・評価

シック・オブ・マイセルフ(2022年製作の映画)
4.1
【私に注目して】



※fans voice様のオンライン試写会にて鑑賞




「ミッドサマー」などの"アリ・アスター"が注目し、その後自分の作品などに招いた海外の監督として思い浮かべるのは、つい最近鑑賞した「オオカミの家」&「骨」を作り上げたチリのレオン&コシーニャを思い出す。アリ・アスターは「オオカミの家」を絶賛した後、レオン&コシーニャとコンビを組み「骨」と言う短編を製作する。その後、アスターの新作である「Beau Is Afraid」のアニメパートの監督として招かれ、晴れてハリウッドデビューを果たす。
このように、アリ・アスターは自身が絶賛した海外の監督を自分の作品に招き入れたりする傾向がある。
本作の監督:"クリストファー・ボルグリ"もその1人。本作が"カンヌ"などで絶賛された後、アリ・アスターとA24の目にとまり、ニコラス・ケイジ主演「Dream Scenario」を製作し、今年の11月に全米で公開される。

さて、オンライン試写会にてそんな監督の出世作を鑑賞したのだが、本当に衝撃的だった。本作は、現代の人々が抱える"闇の一つ"が描かれていた。

今、SNSや情報過多の時代で"承認欲求"と言うものは誰しもが抱く事だろう。誰もが手軽に注目を浴びれる時代の人間だからこそ、注目を浴びる為にいろいろな事をする。だがそれが"暴走すれば"、自分でもそれが正しいと"思い込んでしまい"、周りにとって害に当たるものが歯止めが効かなくなり大変な事になる。
そこには"寂しさからの嫉妬心"から発せられるものもある…。

主人公の"シグネ"は恋人でアーティストである"トマス"との関係にも、人生そのものにも"焦り"を感じていた。彼女には一つ大きな特性がある。

 それは注目を浴びてもらう為に"嘘も辞さない事"だ。

そんなシグネはある日、ある"危険で愚か"な企みを思い出す。ロシアで出回っている"違法薬物(鎮静剤?)"に手を染め、強力であるにも関わらずその薬を過剰摂取する。
その後、肌が爛れるなど症状が悪化。まもなくシグネの企みは成功する…と思っていたが。

"精神病"の一種に「ミュンヒハウゼン症候群」と言うものである。まさにシグネのように、わざと大怪我をしたり、大病を患ったり、人を心配させるような大事を引き起こして注目を浴びようとする症状である。
このシグネが最終的に「ミュンヒハウゼン症候群」だと明かされる所は描かれてないが、シグネの承認欲求の暴走には絶句するしかなかった。しかも周りもちゃんと巻き込む。家族にも友達にも平気で嘘をつく。まさにこちらからしてみたら、「最低」だと思われても仕方ない人物像である。
しかし、少し落ち着いて考えてみると、シグネのやっている事も"分からなくもない"。孤独を長く感じていると、"何かしらで満たしたくなる気持ち"が私たちにも絶対にあるからだ。シグネが薬を過剰摂取した後の顔や体はほんと見てられないほど酷い状態であったが、それほど必死になっていたと考えるとやるせない気持ちになった。

シグネを演じた"クリスティン・クヤトゥ・ソープ"が絶妙に良かった。ちょっと"挙動不審で自身が無さそう"な所もリアルに表現できててゾッとした。"北欧"の新たなスター女優が誕生したなと感じた。

北欧から新たな才能が2人も誕生した本作。
現代社会に生きる人々のリアルな闇の姿を、丁寧に描いたのが本作であった。

ニコラス・ケイジとA24、アリ・アスタープロデュースの監督のハリウッドデビュー作の日本公開は、恐らく来年になるが、その前にそのキッカケを作った本作を劇場でご覧下さい。

エゴに塗れた社会を生きる、貴方に向けた物語です。
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