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シック・オブ・マイセルフの消費者のレビュー・感想・評価

シック・オブ・マイセルフ(2022年製作の映画)
3.9
・ジャンル
サイコロジカルホラー/スリラー/ドラマ/コメディ

・あらすじ
初めは些細な嘘だった…
カフェ店員のシグネは盗んだ家具でアートを作る芸術家の恋人トーマスと窃盗をしながらも平凡に暮らしていた
しかし友人達には彼女の協力は伏せて語られ、駒の様に使われるだけで彼はシグネと向き合おうともしない
ただ自分に注目して欲しい、その一心で話を盛って関心を惹こうとしても人はトーマスの周りにだけ集まっていく
そして抑えきれないジレンマへの苛立ちからシグネは皮膚病を誘発する薬品を売人の友人スティアンから入手し服用を始める
やがて体中に発疹が現れるとそれを利用して周囲から同情を集めようとするシグネ
だがその代償は彼女の行動と共にエスカレートしていき…

・感想
芸術家の恋人への嫉妬と注目への渇望から暴走していく女性を描いたサイコロジカルホラー作品
国内では昨年の話題作だったので鑑賞

何者にもなれない女性がただ注目される為だけに自らを破滅の道へと追い込んでいく
その様は時に滑稽で自己憐憫の強さも相まって周囲からはどんどん人が離れていく
そんなシグネの生き方は誇張されていながらも現代人なら少なからず共感出来る部分がある
彼女の持つ醜い部分を自身にも見出せた時、それが本作の最も恐怖を催させる瞬間だろう
また彼女の背景もポイントとして大きい
両親は離婚しており、父からはネグレクトに近い扱いを受けた過去を持ち母は怪しい物にハマりやすい人物
そして恋人は窃盗の共謀を強要し、普段の振る舞いから密に付き合ってくれる友人も少ない
まともな情操教育は得られず所謂インナーチャイルドを抱え、それが虚言癖となり袋小路に追い込んでいく
彼女は被害者として扱われ注目される事を望んだが実際こんな人間になってしまったという意味では被害者とも言える
どこからが自己憐憫なのか
他責思考はどこまでが健常なのか
その朧げなラインが全く見えない状態で生きている人間はネットの海を見渡せばいくらでも見当たる
そういった意味で風刺としては秀逸だと感じた

端々に挟まれるオフビートな笑いは正直あまり趣味には合わなかった
しかしそれ自体が滑稽で理解不能な存在として扱われるシグネの人物像を象徴している様にも思える
そう捉えると全体に流れる居心地の悪い空気感を上手く強調する演出として正解だったのかもしれない

本作を怖い、気持ち悪い、狂ってる、と受け取るか嘲笑的な笑いを見せるコンテンツと受け取るか
そのどちらにも一定の共感の余地があり、だからこそこの物語はおぞましい
妄想と現実がシームレスに繋がれた構成も主観の外に出る事が出来ない人生の救いの無さを示す物として興味深かった
それでいて他者の評価に固執しているという矛盾がまた痛々しくも共感出来てしまい辛い…
GGアリンの生涯に被る部分があるというか…

強烈な恐怖ではなくシュールに狂気を描いた作品なので人を選ぶとは思うものの鬱映画の亜種として見れば良く出来ている
人間は皆、自分に都合の良い物の見方や行動しか出来ない
そういう厭世観を感じさせる作品としては見事だったと感じた
身近さと誇張の塩梅も良い

ただ承認欲求を強く抱いている人ほど“効く”内容でもあるので万人にはオススメ出来ないかも…
少なくとも自分はちょっと喰らったので…w
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