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せかいのおきくのjamのレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
4.0
まったく知らない映画との出会い。
これはシネフィルにとって"嬉しいこと"のかなり上位に入るのではないだろうか。

ちょっとしたきっかけで知ったその作品
内容を探る時、予告編からの情報は大きなものとなる。


ところで
現代ものももちろん良いけれど、
黒木華には和装がよく似合う。

モノクロの時代劇
市井の人たちのささやかな暮らし
穏やかなピアノの音色

声を失った"おきく"
ぴんと背筋を伸ばし、墨をするその姿
いつしか私のなかで
劇伴のピアノはあるひとつの曲へと変わっていた



阪本順治監督のオリジナル脚本
"おきく"はおきゃんな娘…ここでまず最初に私の想像は外れていた?と驚く
各章終わりにひとときだけ"せかい"に彩が戻る
朱華色の着物とおなじに染まった頬が愛らしい


寛一郎と池松壮亮は、中次と矢亮
二人が下肥買いで生計を立てているという点で驚きは増していく
劇場内にその臭いが充満しそうなほどの描写はモノクロでなければ鑑賞に耐えられなかったかもしれない

「ここ笑うところだぜ」
倹しいながらもクスッとさせられる序盤

予告から受けた印象と
スクリーンの中の"せかい"の差異に戸惑っていたのも束の間
かなしい出来事がおきくの身に起こる辺りから、
私の脳内にはあのピアノの旋律が流れていた


決して派手ではなく
想いを伝える術を失ったおきくのこころに
時にはそっと寄り添い
時には背中をおすように

あの時代には聴くことのできなかったはずの
シンプルな鍵盤の調べが
すっかり"おきくのテーマ"になっていた


この空の果て
果てなんかない、それがせかい


明日もまた良い日になりますように
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