千年女優

せかいのおきくの千年女優のレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
3.5
江戸時代末期。没落した武士・源兵衛の娘で、読み書きを教える寺子屋にて下肥買いの矢亮と紙屑拾いで後に彼の相棒となる中次と出逢ったおきく。刺客の襲撃で喉を切られて父と共に声をも失った彼女が、それでも彼女を必要とする寺子屋の子供たちや汚穢屋と蔑まれながらも日々を生きる中次との恋愛を経て立ち直る様を描いた時代劇です。

バイオエコノミー研究者との交流を経て世界の知られざる仕組みを伝える映画を志した美術監督の原田満生が苦楽を共にしたベテラン監督の阪本順治と作り上げた作品で、当初は原田自身の自己負担による短編からスタートして徐々に周囲の理解を経て長編化を実現。黒木華と池松壮亮に佐藤浩市と寛一郎の親子らが白黒映像に彩りを加えます。

自主映画に近い制作過程の強みを活かした埋もれがちな市井の人々の営みを綴る物語で、時代の落伍者や貧者を描きつつもユーモアと人間味で説教臭さはありません。時代劇によく馴染む白黒がともすれば下品になる題材の格調を保つ一方で小道具等には低予算の限界も感じますが、循環を主題にしながら「せかい」の大きさを語る意欲作です。
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