かずぽん

せかいのおきくのかずぽんのレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
3.5
【「汚穢屋(おわいや)」と「おきく」】

監督:阪本順治(2023年・日本・89分・モノクロ/パートカラー)


うんこが出てくるのは知っていましたが、まさか徹頭徹尾「うんこ」の話だったとは…!
体調の悪い時にはご覧にならない方がよいかもです。
序章から最終章まで全部で九つの章から成っていて、映画タイトルの「せかいのおきく」は第7章のタイトルでもあります。この「せかいのおきく」というのは差詰め夏目漱石の「月が綺麗ですね」と同じなんですね。

時は江戸時代末期。江戸の町の片隅で貧しくても懸命に生きる市井の人々が描かれています。なかでも焦点を当てたのは、武家でありながら上役の不義を訴えてお役御免になった松村源兵衛(佐藤浩市)とその娘おきく(黒木華)。そして、汚穢屋の矢亮(やすけ/池松壮亮)と紙屑買いの中次(寛一郎)です。
おきくと矢亮、中次の3人の出会いは寺の厠の前。汚穢屋の矢亮が糞尿を柄杓ですくって肥桶をいっぱいにするところが丁寧に描かれます。画面がモノクロでよかったと心底思うシーンでした。でも、ジョボジョボという音がダメでした。
いつの間にか中次は矢亮の仕事の相棒になっていました。そして、中次はおきくたちの住む長屋の担当になります。

汚穢屋というのは人々が排泄した糞尿を買って、農家の肥料として売る仕事です。人間も動物も昆虫も食べて排泄するのが自然の摂理。こうして生命は循環しているわけです。昔の人は知らず知らずのうちに“バイオエコノミー”を実践していたのですね。
ある日、大雨が降って、長屋の厠が溢れ出してしまいます。矢亮に言わせれば「俺たちがいなけりゃ、江戸の町は糞まみれだ」ということです。
溢れ出した悲惨な様子を見ていると、お金を払ってでも持って行ってくれるなら有難いと思うのですが、武家屋敷などでは、長屋の連中よりも良いものを食べているのだから(自分たちのは価値があるとでも言いたいのか)「もっと金を出せ」と言います。侍などには厠の中のものなど、何の使い道もないでしょうに欲深なことです。

劇中の事件と言えば、溢れ出した厠の件とおきくの父・源兵衛が侍たちに連れていかれ殺されてしまうことでしょうか。父の大事!と後を追ったおきくは、喉を切られて喋れなくなりました。
この事件の直前に源兵衛は中次に「せかい」について教えるのです。これが「せかいのおきく」へと繋がります。
中次に寄せるおきくの恋心。おきくが半紙に墨で「ちゅうじ」と書いて一人で照れ笑いするシーンが可愛かったです。
おきくが中次の住む長屋まで出かけて行き、中次が帰って来ると着物に臭いが染み付いていて、思わず鼻をつまんでしまいます。その時に鼻をつまんだ方の手をもう一方の手でダメというように振り払うのも可笑しかったです。

今まで考えた事もなかった江戸の人々の生活、うんこの行方、長屋の暮らし、人情、亀有なんていう地名も出てきたりして、勉強になりました。
因みに、うんこは段ボールと新聞紙と水で作ったそうです。撮影が進むにつれてグレードアップしていき、残飯も使うようになったとか。
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