りょう

せかいのおきくのりょうのレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
3.4
 排泄物のことになると、思いだすのが中世ヨーロッパの事情で、ほとんど処理されずに悪臭が漂っていたので、それをごまかすために香水が発展したらしいです。農業用の飼料にするという発想はなかったようです。
 現代の日本でも水洗トイレの普及率は都道府県ごとにバラバラで、バキュームカーを運行する職業は依然として重要です。彼らの“下肥買い”という職業も立派なエッセンシャルワークだったはずで、みんながWin-Winになれる生産的な仕組みです。そんな市場経済的な概念がない身分社会では、当たりまえのように差別されていますが、住職さんも言っていたとおり、誰にでも“役割”というものがあるので、それを蔑んでいいはずがありません。
 そうしたことを映画で表現した作品を初めて観ましたが、あまりに強烈でした。どんなに過酷な描写でも“フィクションだから”って納得して観てきたつもりですが、この表現は妙にリアルなイメージに支配されてしまい、物語の主題から意識が離れてしまったようです。
 おきくの境遇と彼女の心の再生を淡い恋心をつうじて表現していたはずですが、そっちがサブストーリーのような印象でした。“忠義”をひらがなで書こうとしたのに、無意識に“ちゅうじ(中次)”と意中の男性の名前を書いてしまった彼女の照れた仕草がとても可愛かったです。
 排泄物の表現はともかく、どのシーンもとても丁寧に撮影されていて、モノクロの映像やアングルがちょっと美的でした。
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