ノラネコの呑んで観るシネマ

658km、陽子の旅のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
4.2
東京で夢破れた陽子は、父の訃報を聞き20年ぶりに故郷の青森に帰る。
ところが途中のアクシデントで、財布もスマホも持たず高速SAに置き去りにされ、ヒッチハイクで青森を目指すことに。
ずっと心を閉ざしていた彼女は、旅の途中で様々な人と出会う。
悪意ある者もいるが、ほとんどは善意の人。
すると凍りついていた彼女の心も、少しずつ溶けはじめる。
心が折れた女性が、旅を通して過去と向き合い、変わってゆくという物語は数多いが、日本映画では珍しい。
主人公が常に若い姿の父の幻影を見ていて、父へ顔向けできないという意識が、彼女の抜けない棘であることが分かる。
ちょっと設定に無理を感じる部分はあるものの、寒々とした冬の東北の情景が陽子の心情を強化し、鬱屈したキャラクターを演じた菊地凛子が素晴らしい。
意外にも、邦画の単独主演は初だとか。