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658km、陽子の旅のmsyのネタバレレビュー・内容・結末

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

一人暮らしの引きこもり42歳、人と目を合わさない、声出さない、動かない、スマホ壊れる。そんな陽子が東京から青森へ帰らなきゃならないのに高速PAで1人取り残された。(お金は2400円ぐらいしかない)
序盤「一般の」皆さんとコミニュケーションがとれない陽子にイライラする。けれど、今は亡きイマジナリーの父と言葉を交わしたりするゆるっとしたシーンが時々入ってきて陽子のことを嫌いになれず。あまりにも話さないしヒッチハイクで乗せてくれた人にありがとうすらも言わないのだけど、だんだん陽子は本当のことしか言葉にしないのかな…乗せてくれた人の自分語りに相槌も打たないし、ありがとうって思える人じゃないからお礼も言えないのかな…っていう観察が面白くなってくる。それに車が変われば陽子も変わる。優しそうな人にやったらありがとう、言えるやん…このご夫婦みたいに距離感とれる人になりたいな…なんて思ってると、全然そんな啓発的な展開とかじゃなくて…普通はそうなんだろうけど…そういう「いい人」に助けられて弱った人も元気になるね、良かったね、っていう話かと思いはじめていたのだけど…ある車に乗った時の、陽子の1人語りのところで泣かされた。こんな私を乗せてくれた全ての人に感謝です…陽子はそう言ってた。良いも悪いもちゃんと分かってる…ハマケンのことも分かってるんよね…あのやり方には心底軽蔑するけど、それでも乗せてくれた人であってありがとうは言うべきであって…あのシンプルな言葉に自分も周りも受け入れているような強さが感じられて…
海岸でずぶ濡れになって、立ち上がって、歩き出すところ、さすがに凍え死ぬのでは?と思ったのでこれもイマジナリーな場面なのかもしれないけど、自分を振り返ってそのあと前向いて、って動く、動き続ける陽子に心掴まれた。お葬式の会場にたどり着いて竹原ピストルが出迎えて「お父さん、待ってるから」、そのあと気持ち整える陽子の姿にもまた泣いた。
イマジナリーオダギリジョーという仕掛け的なものはあるにせよ、脚本はごくシンプル、なのに菊地凛子のお芝居が素晴らしくて掛け算が何倍にもなって膨らみのある映画だった。さぁ、感動してください!とか、上手いでしょ?とかも全然ないのにめっちゃ感動する。生きるってこういうことだなって思える。エンディングの音楽もめっちゃマッチしてる。すんごい完成度の高い映画だった。
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