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658km、陽子の旅のクリームのレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
3.8
やっぱり、菊地凛子は素晴らしい。陽子そのものだった。最初はコミュ障の陽子にイライラしたけど、コミュ障って、誰でもなりうる可能性はあるかも知れないと思えた。陽子の心が少しずつ生きる為に動き出すのが、良かった。父が導いてくれる痛い女、陽子の再生ロードムービー。

弘前市出身の42歳独身で、仕事は自宅でPC作業、買い物もネット、ほぼ引きこもり生活の陽子。従兄の茂が訪ねて来て、22年前、夢への挑戦に反対され、絶縁状態だった父が亡くなったと知らされた。茂は渋る陽子を無理矢理、車に乗せ自身の家族と共に青森に向かうのですが、途中、子供が事故に遭い、陽子はサービスエリアに置き去りになります。お金も殆どなくスマホもない陽子は、やむなく、ヒッチハイクをするのだが…。



ネタバレ↓



最初は、シングルマザーに乗せて貰うが、何を聞かれてもボソボソ。ろくに会話もせずお礼もちゃんと言えないのにお金を貸してくれと言う陽子。持ってないと言うとATM でおろせないか?と言う始末。勿論、断られます。
トイレのみパーキングでヒッチハイカーの若い女と過ごし、彼女を見送り、次に来た最低男と身体と引き換えに青森まで行こうとするが、失敗。
海沿いで親切な老夫婦に拾われ、何でも屋の女性に最寄りのサービスエリアまで乗せて貰います。
陽子は少しずつ自分を取り戻し、父を見送りたいと心から思い始めます。必死に大きな声で、青森まで乗せて欲しいと叫び、半狂乱になって警察を呼ばれそうになる中、少年と父が乗せてくれます。
車内で親子に18歳の時に夢を叶えたくて、父の反対を押しきり上京し、20数年絶縁状態だった父が亡くなり、葬儀に向かっていると説明した。そして、こんな私を乗せてくれてありがとうございますと泣きながら話ます。少年の兄がバイクで自宅の側まで乗せてくれました。
茂が出て来て「出棺の時間を伸ばしてもらったから」と言います。陽子はボロボロになりながら、玄関に入って行きました。ヒッチハイクの末にたどり着いた“658km地点”。おしまい。

そもそも茂が陽子を置き去りにするという都合の良い設定だけど、心の機微を菊地凛子さんが、上手に演じているので、知らぬまに引き込まれました。社会から取り残された様に思ったり、実際ちょっと人と距離を置いたりって誰にでもあるし、拗らせると陽子みたくなってしまうのかも知れないと思えました。そこから一歩踏み出す勇気って、やっぱり本人次第、気持ちと気合いだなって思った。思ったより、身近に感じる作品でした。
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