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春のめざめのshxtpieのレビュー・感想・評価

春のめざめ(2006年製作の映画)
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あのユーリー・ノルシュテインの弟子だというアレクサンドル・ペトロフ。DVDの映像特典のドキュメンタリーでも、ノルシュテインとの作家どうし、いきなりかなり本気の対談が収められている。

ペトロフは『老人と海』でアカデミー賞短編アニメ賞を受賞しているというが、見たことはないので見てみたい。この『春のめざめ』にしても、ペトロフのアニメーションの制作方法はかなり独特で、絵をガラス板に油絵の具で、しかも指をつかって描いている。「その方がコントロールできるんだ」と本人は語っており、コンピューターを用いはするものの、すべては手作業、手仕事であることを強調する。高畑勲が共感していることも理解できる。ペトロフはガラス板に描くので、前の絵は消してしまう。だから、描いた絵は、撮影したあとには残らない。あまりにもはかない。一方、背景などは別のアニメーターがセルに描いている様子がドキュメンタリーで映されており、ペトロフが映画をつくる不思議なプロセスには興味が尽きない。

ペトロフはこの映画で印象派絵画、特にルノワールを参照したと明かしており、まさに見たとおり、そのままである。印象派絵画、ルノアールの絵が動いて、アニメーションになっている、その様にまずは衝撃と感動をおぼえる(予告編を見た時に、かなりびっくりした)。世界にはこんなアニメーションがあるのかと。指の感触と質感が残された絵がぐにゃぐにゃと動いていく映像は、生々しく、あたたかく、深い没入感を体験させるもので、時にサイケデリックですらある。素晴らしい。

しかも、ペトロフは、とんでもなく絵がうまいのだ。画家としてアートの世界でもやっていけそうなマエストロが、こんなに独自のアニメーションをつくっていることに、再び驚嘆する。

ペトロフは、私がつくる映画は、すべて愛をテーマにしてきた、と語る。『春のめざめ』は、タイトルのとおり、16歳の少年アントンの「春」(恋、愛、性欲)のめざめを描く。ツルゲーネフの『初恋』を読んで、空想にふけるアントン。舞台は19世紀末、革命前のロシア。原作はイワン・シメリョフという作家の小説だ。

アントンは、二つの愛に引き裂かれる……というか、その間で身勝手に揺れ動く。物語そのものは、女性をひどい目に遭わせる、なかなかきつい内容で、あまり評価できたものではない。男は、本当に勝手である(映画に登場する女性--セラフィーマと、特にパーシャは、とても魅力的だ。だからこそ、この物語はむごい)。しかし、恋と愛、心情を「動く油絵」として詩的に、幻想的に描き、躍動する映像には圧倒される。手回しオルガンやキネトスコープのような写真を覗き見る機械など、当時の新しいテクノロジーやメディアが現れること、また、愛ゆえの殺人を犯す近隣住民の牧夫、牛の角に突かれて死ぬ御者のステパンなど、サイドストーリーのように挿入される(しかし、本筋にしっかりと関わっている)エピソードも忘れがたい。

短編じゃなかったら、4.0+をつけていたんだけれど。
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