emily

春のめざめのemilyのレビュー・感想・評価

春のめざめ(2006年製作の映画)
4.6
19世紀のロシア、貴族学校に通うアントンはツルゲーネフの「初恋」を読み自分の初恋を妄想する。身分の差を超えた彼に好意を持つパーシャと、となりの年上の令嬢セラフィーマの間で揺れ動く様を繊細な油絵で描く。

少年の揺れ動く心と、油絵の繊細な消え入るような描線が見事にマッチし、切なさの中にある美しさが表面に出浮かび上がる。

画面の切り替えがスムーズで、まるで流れる川のように滑らかで、そこに妄想の世界観がしっかりのっている。

出会いや淡い恋心を自然や動物を使いロマンティックに詩的要素いっぱいに描き、消える際の儚さ、触れる瞬間の手先に感じる気配など、実写でもアニメーションでも出せない、空間にある感覚が揺れる輪郭にしっかり表現されている。

二人の触れただけのキスシーンはもちろんだが、映像の中に絵画が何枚も仕込まれているような、どのカットもうつくしく儚げで、それでいて無限の可能性と残酷を秘めていて、滑らかなのにスピード感もあり、リアルなのに幻想的で、感じたことのない浮遊感と地に着いたリアルの両方を行ったり来たりさせられる。

映像美だけではなくストーリーも普遍的でありながら、しっかり、メッセージ性があり、幻想と現実が見事なバランスで再現されており、しっかりラストには現実に引き戻してくれるところもまたいい。

30分足らずの短い時間、ここまでトリップできる作品もそうそうない。何かに行き詰まった時みると、浮遊感の中でふと我に返り、今の現状をしっかり見つめなおすことができそうだ。
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