垂直落下式サミング

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
クレヨンしんちゃん劇場版初の3DCGアニメ。
悪役はヌスットラダマス二世。ノストラダムスの隣町に住んでいたヌスットラダマスっていうネタは、しんのすけとひまわりが超能力を得る原作のエピソードから引っ張ってきているようだから、オールドファンに対しての目配せは抜かりない。
ただ、アニメーションとしての動きは、お世辞にもいいとは言えなかった。一時代前のCGアニメを観ているようで、アクションシーンにもあんまハデさはないけれども、シンプルな線で描かれた動く記号としてのマンガアニメーションとしては、このくらいの省エネでも成立していると思う。
というか、見せ場でぬるぬる動きすぎる原恵一監督作品とかがオカシイのであって、本来クレヨンしんちゃんはこのくらいでいい。いい意味での軽さは漫画連載初期とかのテイストを意識していそうだなと、ボクは好意的にみました。
問題なのは敵の設定。野原一家のような幸せな家庭に生まれて友達もたくさんいるしんのすけと、家族や環境にに恵まれなかったためにモンスターとなってしまう非理谷の対比は、子供向けでやるような内容じゃない。二十余年前に平凡な家庭として描かれた野原家は、今の基準では勝ち組一家である。
離婚とかいじめとか、悪役のバックボーンに毒気のある風刺性を入れ込むのは、なかなかクレヨンしんちゃんをわかってる気がしたけれど、あからさまに「非リア充」を読み替えて「無敵の人」とするくらいにハッキリと社会問題を取り上げる気ならば、もう少しモノゴトの本質まで踏み込んでもらいたいところ。この落とし前の付け方では、誠実さに欠けると思う。
近年の劇しんよりも、セクハラギャグが増えているのは時代に逆行していてよかったし、そこから急ハンドルで人情ほっこり話に舵を切るスピード感はよかった気がする。やらなきゃいけないから入れてるんですよって、製作陣の事情も伝わってくるようだ。
実写畑の大根仁が監督脚本を担当しているから好意的にみたけど、セリフのセンスは微妙かなと。大声でそれっぽいことを叫ぶだけ。取って付けたように唐突に道徳的なことを言い出すのも、むしろあざといと感じるくらいには恒例行事化しているし、そろそろ「ギャグアニメなのに泣ける」みたいな呪縛から思いっきり脱却して、「笑えるナンセンスコメディ」として、全国区のテレビじゃできない下品さで、ガキンチョの未発達な腹筋を潰しにかかったほうがいいんと違うか?
そもそも、原作のクレヨンしんちゃんは手に負えないクソガキだから人気になったんだし、まわりの大人もみんな性格になんかしらの問題を抱えているやつらだった。だから面白かった。
それが長寿アニメとなり、いつの間にか子供の純粋さとか家族は大事だとか友情は尊いだとか、わかりきったことしか言わなくなって、ぞうさんを奪われて、けつだし歩きを奪われて、爪を折られて、牙を抜かれて、イイコになりすぎた。そろそろクソガキとしてのしんのすけを復古すべき。『シン・クレヨンしんちゃん』のちんコプターをスクリーンで!期待してます。