このレビューはネタバレを含みます
なんか、霞が関の商社勤務で春日部に一戸建て住居と自家用車を持ち、子どもが2人いる35歳のひろしが、30歳派遣社員の、いわゆる「弱者男性」と括られる属性の敵を抑えて説教する話らしいと聞いて観てきた。
世の中の制度や空気は、 野原一家のような人達を優遇し過ぎてるところは確実にあるし、クレしん映画を観に来るファミリー層はその恩恵にあやかっている既得権側が多いだろうから、彼らの機嫌を損ねないように、如何に弱者男性を悪者として描くのかに関心があったけど、まあそこら辺りで着地させるだろうなと思った。
確かに、クレしん好きって暑苦しくて押し付けがましいタイプが多いんだよね。
僕の妹は高校教員でクレヨンしんちゃん好きだけど、こういう能天気で青臭い価値観で、まあ世間の多数派ってこんなもんなんだろうな、とも思う。
身も蓋もない本音を書くと、世の中の大部分は承認欲求と性欲で動いている以上、所謂「弱者男性」に社会は手を差し伸べないし、世間の大多数は会社員で、会社員の所得はほぼ学歴で決まり、当人の学歴は親の収入の影響がかなり大きいので、日本は階級移動が少ない社会主義的要素が強く、本人の努力で改善できる範囲は限られている。
作中の最後に、何度も「頑張れ」とみんなで励まし続ける描写があるけど、真面目に頑張る人ほど良いように扱われて弱者男性の立場に甘んじる場合が多いと思う。
世間では、以前からハイスペ男性の野原ひろしの生活を勝ち組だと憧れる人は多いし、『オトナ帝国の逆襲』でも、「俺の人生はつまらなくない」という名言があるけど、個人的にどう考えても野原ひろしの人生は大した旨みが無くつまらないと思う。
単に女性にとって都合の良い男性の典型で、世間体の塊のような生き方だから、女性が野原ひろしを評価するのはとても納得がいく。
その意味で、本作の敵キャラである弱者男性の非理谷実とハイスペ勝ち組男性の野原ひろしは、全く正反対の属性でありながら、実は表裏一体の関係。
野原ひろしのような勝ち組ハイスペ男性も、今作の敵キャラの弱者男性も、社会に対する承認欲求で動いてる点であんまり変わらない。
強者男性になるか弱者男性になるかは、女性にとって都合が良い存在かどうかってだけ。
世の男性の大多数は、日本人女性にとって都合の良い役割を要求されるし、野原ひろしはハイスペだけど性欲に振り回されて女性の言いなりになる、彼女達にとって最も好都合かつ哀れな日本人男性の象徴だな、というのが久しぶりにクレしんを観て感じた率直な印象。