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瞼の母のryosukeのレビュー・感想・評価

瞼の母(1962年製作の映画)
3.8
15日という慌ただしい撮影期間しか確保されていなかったためか、限定されたセット、カットで構成されているが、これだけの構成要素で成立するものだなあと節約術に感心した。ワンシーンが長回しのワンカットで終了してサクッと別場面に切り替わると不思議な感覚があるな。
度を越した嫌らしさが愉快な原健策演じる金五郎や、阿部九洲男演じるヤクザのリーダー格の脂っこさ等、かなり演技感の強い味付けの濃い演出になっているが、加藤泰の様式的な映像スタイルだからこそ浮いていないように思える。
長回しのワンカットの中に老女と主人公が同時に収まるシーンが連続し、カットの時間の持続の中で擬似的な親子の空間が出来上がっていくことが繰り返される。
そして、ついに実の母との対面となるシーン、画面奥の襖の向こうに主人公が見えた瞬間の緊張感が、これは本当の出会いであることを悟らせる(女優で分かってる節もあるけど) 。台詞と裏腹の真意が滲み出る木暮実千代の所作や表情が切ない。ラストシーンで森に響く叫びも哀切だった。
筆を持つ手を補助してもらい、あるいは金銭を手渡すことで三人の老女と手を触れ合い、そこに擬似的な母子関係を感じ取る主人公だが、真の親子である二人の距離は双方が間合いを詰めようとしても結局埋まることはない。
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