とむ

君たちはどう生きるかのとむのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

実は初日に有給取って観て来ました。

予告編やストーリーなど、一切の詳細を公開日まで明かさずに隠し通すというなかなかの蛮行ですが、
全く知識を入れずに作品を見られるなんて体験はジブリのこれまでの功績があってこそ出来た、ある意味後にも先にも体験できない上映形式だと思うので、上映開始1週間以内のできるだけ情報が出ていない間に行くのが正解だと思います。


「トトロっぽい草トンネル」
「ハウルの夢シーンみたいな洞窟」
「千と千尋っぽい崩れる場所を走る描写」
「まっくろくろすけとかコダマっぽいちび生物(ワラワラ)」と、これまでのジブリ作品の釣瓶打ちみたいなアニメーション表現。

終盤の「今後起きる残酷な運命を理解した上で、それぞれの世界へ帰る」と言うテーマ性は、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督作「メッセージ」に近いなと思いました。
そう捉えると「きみはどう生きるか」というタイトルもある意味それを踏襲しているようにも感じますし、リアル路線か、ファンタジー路線か曖昧な線引きもそう言うテーマ性にはそぐっていたのかなと感じましたね。


といいつつ、僕はこの映画好きじゃなかったです。
というよりむしろつまらなかったです。

なんていうか、話のテーマとかシナリオが良くも悪くも映像系の美大生の卒業制作を観ているかのような、私小説と言えば聞こえはいいけど、その実「オチなしヤマなし、意味だけブチ込んだ」って感じのストーリーでした。

今まで数多くの"名作"を作ってきた監督にこんな感想は憚られますが、こと自分ごとを描くことおいては素人同然なレベルでありきたりなストーリーだったと思いました。
「もうひとつの世界へ行くことで内面と向き合うことになる」
「世界を構築する原理そのものと対峙する」
「帰ってくるとそこでの出来事は忘れる」
等々、こういう話には特に"ありがち"な都合ですよね。

良くない例えですが、全体をポジティブに昇華した紀里谷和明監督作品ってイメージ。


これはあくまで僕の意見ですが、
宮崎駿は"クリエイター(職人)"であって"アーティスト(芸術家)"ではないというのを今作で感じました。

ここでいうそれぞれの意味合いとしては、クリエイターは既存の主題を独自の解釈で作品として昇華させるタイプで、
アーティストは自分の心のうちの葛藤や主張を作品に落とし込むタイプと定義しています。

別にクリエイターとアーティストのどちらが上でどちらが下、なんてことを定義付けるつもりはさらさらありませんが、単純に畑が違うという話ですね。

で、クリエイターである宮崎駿がアート作品を作った結果、ものすごーくそこの浅い作品ができあがっちゃったと言う印象でした。
前述した通り、美大生の卒業制作で出てくる様な底の浅さです。


"ありがち"で言うと、これもかなりのがっかりポイントの一つなのですが、
前述の「ワラワラ」のデザインがあまりにも類型的すぎて「これが本当にこれまでまっくろくろすけやコダマを産んだクリエイターの最新版なの?」と絶望に近い衝撃を受けてしまいました。
あんなん、ほぼぐでたまじゃんか。

あとはポスターの青鷺があんなにカッコよかったのに…というのは結構な人が思うところではあるのですが、まぁこっちは宮崎駿っぽい出立だったからまだマシかな…


もうひとつ宮崎駿デザイン云々でいうと、召使?のおばあちゃんたちがあの世界観からすると明らかに浮いた見た目だったことに最初こそ気になりましたが、
観ているうちに「あぁ、これは『眠れる森の美女』やの様な寓話として描いてるんだな」と腑に落ちたので、つまりあれは七人の小人ですよね。ちょうど七人ですし。
(母親が出て来てからの展開なんかモロに『不思議の国のアリス』でしたしね)


ただ、全体的に「やりたい事もストーリーも理解はできるけど、納得はできない」と言う感想に尽きるんですよね…。
これまでのジブリ作品に比べて明らかに「こう言う話」という説明もできないし、それ自体は今作自体がそう言う意図で作られてないから良いとしても、アート作品として消化するほど中身があるように思えないので、これをアート作品と言い張るのは逃げだと思います。

同じアート系の映画で言うなら昨年公開されたアレハンドロ・G・イニャリトゥの「バルド」の方が断然好きでした。
アニメじゃねーだろと突っ込まれそうなので、ほか挙げるとひらのりょうさんの「パラダイス」とかですかね。
「意味がわからないのが心地よい」という領域まで達してないと思うんですよね。


ラストの青鷺のセリフのように作品自体が「(この世界のこと≒作品のこと は)忘れていってしまっても良いのだ」という趣旨のテーマ性だったとしても、そんなもん製作者の体の良い言い訳だろと思ってしまいました。

これをデビュー作で作ったならまぁまぁ、と納得させる余地もあるんだけど、
これまで数多くの"名作"を生み出して来た宮崎駿がこの作品を作ったという事実にそこそこがっかりしてしまいました。
(しかも長編としては遺作の可能性がかなり高い)


観た人と語ることで完成する類の映画なのかもしれませんが、僕は何かを語るほどこの作品が面白いとも思わなかったし、熱量を持って批判するほどつまらないとも感じませんでした。
ただ、「つまらない」と言う事自体が野暮だったりナンセンスと揶揄される風潮も含めてあんまり好きな作品じゃないなーという感想です。

風立ちぬの方が好きだったな…。
とむ

とむ