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君たちはどう生きるかのrensaurusのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.7
アイコニックなジブリ感はなく、内容も抽象性が高いので、冒険活劇というには地味で難解な作風だと率直に思った。

しかしながら、紛れもなく宮崎駿がそこにいて、一人の人間の純粋なものが滲んでいるような映画だった。鑑賞後数日、この映画がずっと引っ掛かり、ふと思いに耽ることになり、答えの無い解釈の試行錯誤を繰り返していた。このような体験を与えてくれる映画は、宮崎駿にしか作れないのではないかと、改めて震えるほどの感動を覚えることになる。

現実と上手く向かい合えない「傷」を負った主人公が迷い込んだ「創作」の世界の頂点には、祖先となる賢者が居て、彼に与えられた「石」ではなく、自分で拾った「石」を持ち帰る。例え崩壊していく世界であろうと、冒険を共にした、青鷺、ヒミ、キリ子のような友達を作って現実を生きていこうと決意する。

原作の『君たちはどう生きるか』の作中に、「本や映画を観て知識だけ肥やしていても意味はなく、『真実心』から感じたものから出発して考えることを大切にしろ」という趣旨の話があるが、まさに本作との向き合い方を教えてくれる教訓だ。宮崎駿が忍ばせたことや、ネットの批評をただ受け取るのではなく、眞人が石を拾ってきたように、自分の心で掴み取らなくてはならない。創作なら何でも、祖先のように何か通じ合うものを感じるものからしか学びを得ることができないのだから。

「己の目で、己の体で、己の心で、真に培った己を、美しく、力強く、友と共に生きろ。」という、今の時代に深く刺さるメッセージを感じるのだ。

本作、『君たちはどう生きるか』という作品は、紛れもなく「生きた」作品であるように感じていて、観ている側に擦り寄ることも、遠く離れることもなくそこに在り、それでいて不条理で非合理なものが次々に現れてくる。我々は「人生」というものを気が付けば持つことになるが、その意味や目的は、自分で見つけなくてはならない。それはまるでこの作品の意味を汲み取ることのように、決して容易ではなく、正解がないのだと思う。またそれは、分からなくても良いとも思う。分かろうと生きることのほうが重要だ。

宣伝が無かったことも、この作品を突如として体感するという、「生きる」ことの擬似体験のためには無くてはならない方策であり、奇跡的で大きな意味のある売り出し方だとも感じている。

宮崎駿監督の遺作となるかもしれない今作を、劇場で味わうことが出来て本当に良かった。彼が蒔いた種を発芽させることができるように、自分自身の人生を生きねば。
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