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君たちはどう生きるかのakinakiのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
5.0
単純に一言「すごいモノを見た!」。とにかく劇場で見て体験してから考えるべき作品。たしかにこれは集大成。まだ語りきれなかったこと、「動画」として表現したかった宮崎監督の想像力が全て含まれていた。その「凄さ」をあらわす6つのポイント(ネタバレあり)は次の通り。












以下、ネタバレ入ります。

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凄さ1: 戦時下の社会,技術、価値観を圧倒的なリアリティで表現
人力車、都市空間、疎開、社会階級、名家の家並み、戦時工場の現実等。当時の世界を忠実に「動画」という技法を用いて描いた。その時の生活者を描くという視点では『風立ちぬ』のみならず『この世界の片隅に』に迫る勢い。

凄さ2:空襲の凄まじさのリアルに加え情動をも示す
逃げ惑う群衆に逆らって走る動きや眞人をつつまんとする暴炎といったシーケンスの凄まじさは『風立ちぬ』における被災の瞬間や『火垂るの墓』の空襲シーンをも超え、『スパイダーマン アクロス ザ スパイダーバース』すらも凌駕する勢い。

凄さ3 : 時空間の超越
義母を探すために辿り着いた洋館の扉を開いてからの進展の跳躍に呆気に取られたが、宮崎少年にとって、「疎開」とは、現実と虚構の狭間だったのだろう。そういった心象が劇中では忠実に描かれた。名家の屋敷と洋館という当時の想像力を現代の技術を最大限活かしてビジュアル化することにより今を生きるクリエイターでは及びもしない数々の独創的な想像力が発揮された。文明開花の大号令とそれに追いつけない土着文化が統合化している不可思議な世界観を生み出したのだ。本来は「個人の幻影」として掻き消されるような、しかしながら溢れ出る想像力を、作り手はしっかりと作品へと昇華した。市場主義の荒波に抗うどころか完全に別次元に存在するかのように「本作はここにある」。

凄さ4: 最終章は形而上学的概念にまで踏みこんだ内容に
本作では生と死、現実と個人の想像力が文字通り創造力となって並列に存在する世界。具象と抽象も分け隔て無く描かれ、そこでの表象を前提に「物語り」が進む。外来の遊星や大叔父による積み木は『2001年宇宙への旅』のモノリスや同作終盤における「最後の間」を彷彿とさせる。

凄さ5 地に足のついたテーマへの帰結
「君たちはどう生きるか」は突き詰めていくと宮崎監督の自身の人生に対する「問い」である。同時に観客に対する「問い」でもある。大叔父がしめす「創造力」とは端的に言えば「未来を生み出す力」であり、それは全ての人々に与えられているということだ。

凄さ6 :アート作品でも最後は「英雄の旅」的語りの形式美に帰結すると言う「語り部」としてのプライド
本作は自分自身の「想像力」と「創造力」の探求が作品そのものを駆動させていることを踏まえると、「自己表現」が本作の核心にあるのは間違いない。そのような意味で本作は紛れもない「アートフィルム」だ。それでもなお「選ばれた少年」が異世界へと旅立ち、その世界で歩みを進め(成長)。現世へと帰還する、「英雄の旅」という形式美は維持している—-「エンターテイナー」であることの誇りと自己アイデンティティをこのような形で残すことが宮崎イズムともいえる。
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