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君たちはどう生きるかの新品畳のレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0
超たのしかった…

追記:2回目みた!2回目のが更に面白かった…!


以下ネタバレ含む感想(ちょくちょく自分なりに思いついたことを追記)

冒頭〜中盤にかけては作画の違和感、内容と色調の暗さに「え、やばい…これは、もしや面白くないかも…」とポップコーンを持つ手さえ止まってしまうほどに狼狽えてしまったが、サギ男との対峙以降はファンタジー度爆上げで加速度的に不条理さ面白さが増してきてワクワクした。

特にインコ!かわいすぎる…。

眞人の母親の幼少期の姿であるヒミは下の世界において火を司る少女であり、そして将来、その火によって眞人を産んだのちに死んでしまう運命にある。

この世界が眞人自身の空想の世界なのであれば、子供が自分の身の回りで起きた悲しすぎる現実を空想に置き換えて自分を癒そうとする行為とも取れるかもしれない(実際そういった側面もあるように思う)。

ただ違う視点から物語上で火がどういうモチーフとして描かれているのかを考えた時に、「戦火」「火事」「暖をとる」「調理」「ぬくもり」といった様々な側面を表していた(≒プロメテウスの火)。
使いようによっては、人を助け、傷つけてしまう火の業によってヒミ(ヒサコ)は命を落とす。矛盾とその特異点のような存在として彼女は描かれていたように思う。同時に「生と死」の境目にいるキャラクターでもある。火によって生きること、死ぬこととは何か。その先にあるものが眞人の「生」なのが凄まじい表現だと感じるし、その上で「君たちはどう生きるか」というタイトルなのが味わい深すぎる。

塔はまさにスタジオジブリそのもののことで、その礎を築いた大叔父は高畑勲のことかな(加えて宮﨑監督自身の面もあるだろう)、とか、いつも宮﨑駿(主人公)を唆しつつなんだかんだ苦楽を共にするサギ男は鈴木敏夫だろうな、とか、若き日のカッコいいキリコは数年前亡くなった保田道世さんかな、とか宮﨑監督の周囲の人間関係を知っていると想像してしまうようなモチーフ、キャラクター配置が垣間見えてすごく良かった。
特に「塔建設時には怪我人・死者がたくさん出た」という発言からは若くして亡くなった近藤喜文さん、二木真希子さんのことが想起された。

塔内を「カゴの中」と捉えてるから内部の主な生き物に鳥を用いたのだろうか。
本来大空を自らの翼で空高く飛べたはずの才能ある鳥たちを自身の理想のためとはいえ、限られた狭い世界で"飼い殺してしまってきた"大叔父の業も監督自身が背負ってきたものなのだろう。
その中でも唯一塔の内外を頻繁に出入りすることができるアオサギは、やはり鈴木Pの他いないな、と半ば確信した。

とは言っても、アオサギというキャラクターは主人公の中にある悪意を客体化した権化でもあると思うし、物語上で自分の中にある醜い部分も「友だち」として受容する役割も担っているので、単にモデルの一旦だろうというだけでそこだけに囚われることはあまり意味がない。

自分の悪意に自覚的になっても、それから目を逸らさず他人の作った物語(ある種の宗教や美しすぎるが潔癖とも言える芸術作品や思想など、他人の作った幻想=観客にとってはジブリ作品群、宮﨑監督にとっては亡き高畑勲という大きな存在)に回収されずに、現実の家族や友達とともに生きるべきだという結論を、アニメーターとして、映画監督として最高の高みを経験した宮﨑監督が老境の中で提示したことは独特の説得力を持つと感じる。

作品世界は現実世界の代わりにはなり得ないし、ならないほうがいい。それでも作品内から持ち帰ることで日々を生きる一助になる"御守り(汚れなきひとつの積み石)"として自身の作品が機能して欲しい、そういった願いと祈りに満ちたメッセージもよかった。

宮崎駿作品の中で最高傑作とは言えないかも知れないが、本当に楽しめた。
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