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君たちはどう生きるかのayのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

最後の最後までもがき苦しみながらその生きざまをアニメーションに刻む芸術家の、生な魂をみせつけられた感じ。ありったけの雑念、妄想、記憶、知識、夢とか無意識とかからもたらされる何と呼ぶのかわからない未濾過の不気味なイマジネーションが、特に後半あふれてた。君たちはどう生きるかって子どもたちに高みから問うスタンスじゃなくて、まず先に、おのれの生きかたスタジオジブリのありかたを作品に込めてぶつけてきてる。高潔なものを描ききりたいという欲望と想像力の解放。自分をどこまでも貫こうとする姿勢を、背中を、そのままみせるというか。

基本的に主人公・眞人の成長譚であって、眞人は思春期の宮崎駿さんであり吾朗氏でもあるのかな?父も母も頼れず帰る家はない。虚構の世界に魅惑されながら、それでも人間の世界、日常の側に踏みとどまって両方に生きると心に決めた永遠の少年。"継承"の物語だけど、困難に力強く立ち向かうヒーロー・ヒロインはどこにもいない。この世界の理不尽さ取り返しのつかなさに決定的な解決はもたらされないだろうという諦念や寂寥感も、透けてみえる。

作画の表現面ですごかったのは、内なる真理、内面の葛藤のメタファーでもある空間設計の奥行きとエフェクトの深み。冒頭の眞人の勢いこんだ階段上り下り、何度か出てくる炎の描写とか宇宙の闇との対峙の迫力とか襲いかかる鳥の大群の異様さとか。おもしろいきれいとかだけじゃなく鬼気迫りショッキングでさえある。バラバラの素材があるタイミングで一点めがけうごめき流れはじめるから、ただただスクリーン上で炸裂するものに浸ればいい、意味は後からついてくる、というタイプの作品でもある。   

「ナウシカ」「もののけ姫」の神がかった怒涛の物語展開や愛すべき個性のキャラクターたちがジブリのなかで1番好きな身としては、本作のストーリー骨子やキャラクター造形は正直インパクト弱く感じられ、セルフオマージュを多く含む作品とはいえ既視感もあった。特に、かつては大胆さや瞬発的な動き、躍動感でいっぱいで人を動かす喜びにあふれてみえた人体描写が、生命感や洗練、リアリズムの徹底が失われた感触があって、アクションのぎこちなさ、荒っぽさ、不確かさもみえ隠れした。でも、全盛期にみなぎってた留まるところを知らないエネルギーを、今も同等に求めるのはそもそも無理があるよね、とも当然思う。

公開初日に映画館に行ったりして、宮崎駿さんの作品は、自覚してた以上に自分にとっても大きな存在だったんだなって今さら気がついた。作品のなかで死とかあの世とかのイメージがずっと濃くて、想像したくない"終わり"の予感が漂ってて、取り残されてしまうようで途方もなく寂しくて、同時にありがとうという気持ちでいっぱいにもなった。この方は、人間のちっぽけさを超えた大きな力で、一体どれだけたくさんの人たちを励ましてきたんだろう?


0716追記メモ
神話構造を批評的にみれば、確かに、喪われた母が巨大な想像力の源泉だった、という物語だよな…

柴那典のポップの予感
#92 『君たちはどう生きるか』はどういう物語だったのかを深読みする
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