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君たちはどう生きるかのmemのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

これは宮崎駿監督の"走馬灯"なのではないか、一言で言うとすればそれが私の感想。陽にも陰にも無限に拡がるイマジネーションのチカラ、、、
初見でスコアはまだ付けられないと思い、いずれ。

まずは映像に喰らいついていくのに必死ながら、何より誰も事前に見方がわからない映像体験って事実にわくわく、。
これだけの人が考察をする現象って、なんでも調べてれば他人の言葉で"解った気"になってしまうことから逃げられない現代において希少で意義あることだ。"ただワクワクすること"も、"ちゃんと考えること"も、映画の、芸術のあるべき姿なのではないか。シンプルな喜びを信じたいね。

●序盤から"ジブリクオリティ"を見せつけられるような映像。さらにそれがアップデートされた主観映像という凄み。
覚えていないくらい小さい時からこのクオリティ観てみんな育ってるんだから、なんていうアニメーションの英才教育を日本人は受けてきてるんだろうと改めて思う。"受け手の成長"への寄与という部分。"ソフトパワー"にまだ名前がついていなかった頃から、確実に日本のカルチャーの礎となる圧倒的なエネルギーを注ぎ続けてきてくれている(現在進行形)のだなと実感。

●「走馬灯」を思わせる理由、セルフオマージュの数々にこれが集大成であることを仄めかされるようで、かつエンドロールの「宮崎駿、鈴木敏夫、久石譲」の並びを令和5年に告知なしの新作として映画館で観ることができたことに感動した。
本作に関しては、恐らく何回観たとて「解った」と言うことは横暴な気がする、がしかし映画館でこの体験ができたことに感謝です。

●扉から手を離さない決断と、「眞人さんのお母さんになれるなんて素敵じゃない!」が断然好きだった。
あの建物が複数の世界に跨って建っていたように、人間や感情や世界もそうである気がする。見る面によって、見方によって、見え方は変化する。

●大切な人の大切な人を守り、理不尽でも元の世界に戻ることを決めた眞人(夏子を母と呼ぶ気持ちがどこから来たのか気になる)。過酷な運命が待ち受けていることをわかった上で、それでも愛と覚悟を持って産まれ落ちることを決めたヒミ。
そして生と死、若さと老い、殺生、血や傷、排泄、食欲、性欲、睡眠欲、母性の渇望…それらがヌメりや臭みを伴って時に汚いほどしっかり、様々な欲望が行動として描かれていたことも印象深い点。ファンタジーと現実の明確な境界。破壊と再構築。生と死。塔の中で起こった出来事の過剰なアニメーション性と、現実世界に在る生々しい欲の生活感の対比。
そして非常にパワーのある「悪意」という文言。ただ美しい作品だったらその印象しか残らないだろうけれど、こういうザラつきは摩擦として心にちゃんと残る。人間として「生きる」ことそのものへのピュアな祝福なのか。

●これだけめくるめく世界を冒険した眞人、後から思い返した時、彼が何を見ても何に出会ってもそこまで疑問視していなかったことに気がついた。むしろ新たに出会うものへの受容力が豊か(無知ゆえか)。きっと彼らの童心で見たあの世界は、鑑賞した大人が思う「接続性の不和や脈絡の無さからくるわからなさ」など関係ない。芯を持ちながら常に自分で在った。それが全てじゃないか。

●眞人があの一冊の本を読んで世界の見え方が変わったように、そんな作品が誰にでもきっとある。
「さぁ映画館を出た君たち、これからどう生きてゆくかい?」駿監督の問いに私たちはどう答えてゆこう。永遠の宿題を突きつけられたような気持ちで帰りの電車に揺られています。
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