このレビューはネタバレを含みます
本作は同名の原作を持つが、それと内容は無関係な(と言い切って良いのかは迷うところの)宮崎駿のオリジナル脚本である。劇中で主人公がこの書籍を読む場面はある。
簡単にいえば「宮崎駿名作アンソロジー」なのだろうか。「千と千尋の神隠し」と「もののけ姫」と「崖の上のポニョ」と「風立ちぬ」の要素がミックスされている感触がある。
登場人物は皆どこか「既視感」がある。使用人の老婦人群は「湯婆婆」のタッチで、キリコさんはエボシ御前ではないか。ポニョっぽいモノも出てくる。逆に言えば「元ネタ」を探る楽しみがあるといえばある。
加えて劇中に出てきて自身を助ける女性が実は若い頃の、亡き母親であるなどは「銀河鉄道999」を挙げるまでもなくアニメ作品としては常套と言えそうだ。仏教とキリスト教の「聞きかじった程度」の考察と表現は出てくるが、当然だがまとまっていない。
また、世界を覆ったコロナ禍に対する宮崎駿なりの考察も感じる事が出来たが、構図は天上人が天から見下ろすように操る部分がほとんど「アルゴ探検隊の大冒険(1963)」と変わらない。
宮崎駿は本作で絶筆とするのだろうか、そんな所感もある。新しい表現がなく過去の焼き直しを描くのはつまりそういうことなのだと思ってしまう。結局内容に斬新さは見当たらない。
ならばこれで自身のキャリアを収める決意で制作した——と言ってしまえる作品と感じた。タイトルの印象から考えるとメッセージ自体は非常に弱い