櫻

君たちはどう生きるかの櫻のレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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冒頭から涙が溢れてきて、ずっとありがとうありがとうと思いながら観ていた。いちばん大切なものを思い浮かべたり、こころの奥深いところにあるシェルターでともに過ごしてくれた映画や音楽や本に思いを巡らせた。わたしから見えている世界はけしてすきにはなれそうにないものだけれど、それでもこの世界で生きるのをやめないでいるのは、それらが光って見せてくれたからだった。ここがどんなに色を無くしても、約束しなくてもただそこにあってくれたから。

あたらしいことをするのは怖いことで、気を抜くと現状維持を貫こうとしてしまう。けれども1日だって同じ自分ではなく、今日を終えて明日をむかえる間に、わたしをつくりあげる細胞たちは死んだり生まれたりを繰り返す。日々が積み重なっていくうちに、この世界に産まれ落ちたときとはまったく別のものたちでつくられていくわたしは、何ひとつ変わっていないのだと思いながら、何もかも変わってしまっていた。これまで傍らにあったものたちをいつのまにか捨て、いくつかの大切ななにかを抱えながら。この手遅れの世界で。
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