このレビューはネタバレを含みます
君たちはどう生きるか、観た。
美しいビジュアルや、出演者たちのジブリらしい独特の熱のある演技が素晴らしくて、間違いなくおもしろい作品なんだけど、手放しで歓迎できないくらいの違和感がある作品だった。
ネットで散々言われている通り、宮崎駿監督の人生観・クリエイター観に基づいたエッセイ的な側面が非常に強い作品なのは間違いないと思う。
具体的な時代設定。眞人の心理を中心としたドラマ。楽しげともグロテスクともとれる塔の中のファンタジー世界とその成り立ち。
そのどれもが非常に示唆的で、監督の生い立ちと照らし合わせてじっくり考えたくなるような要素にあふれているように感じた。
ただ、「魚をさばくことが〇〇を暗示している」とか「監督にとって母親とは」みたいな細かい描写のあれこれは、たしかに考察し甲斐がありそうではあるけど、正直興味もないし、あんまり意味があるものとは思えなくて……。
導入やキャラクター・画作りが強すぎるから、一つ一つを整理して突き詰めて理解したくなってしまうのは分かるけど、明らかに落とし穴だと思う。
肌触りはTENETに近い。「考えるよりも感じる」方が圧倒的に早い作品。
そんな不思議な世界観において、テーマとして伝えたいことは、
クライマックスの大叔父との問答の、
「13の悪意にまみれていない美しいものを受け取ってほしい」
「受け継ぐかどうかさえ君たちに委ね、受け入れる」
という、新しい世代に向けたシンプルなメッセージなんだろうなと思う。
このメッセージ自体は自分としてはとても好感を持っていて、説教臭く押し付けるようなことはせず、「子どもたちが折に触れて観ることで何かしら意味を見出してくれれば」というあたたかい目線が想像できるストーリーだったと思う。
ツイッターで「冨野監督がTV版『Gのレコンギスタ』でやりたかったことと同じ」と書いてる人がいたけど、まさにその通りだと思う。
宮崎監督の「見たくなくても、見る!!」が聞こえてきた(嘘)
ただそれならそれで、なぜ恐らく多くの人が望んでいたであろう、大人も子どもも楽しめる分かりやすい冒険活劇の物語ではなく、分かりにくくネットで大きいお友達が訳知り顔で好き勝手論じる養分になってしまうエッセイ風にしてしまったのだろう。
わくわくしたり生きる活力を生み出すのは、注釈や書き手の補足情報が必要な「エッセイ」ではなくて、前のめりに熱中できて、身につまされる視点を持った「物語」の力だと自分は思う。
そういうことを考えたときに、
全く余計なお世話なんだけど、今回の作品を見て、子どもたちがこの作品を長く心に残るメッセージを持ったものとして受け取るだろうか、この作品を原動力に新しい価値を生み出せるだろうか、宣伝もなしで子どもたちが楽しみに集まってくるだろうか、などと要らぬ心配をしてしまうくらいには違和感があった。
この辺は、観る側を信頼している(したい)と受け取ることもできるし、クリエイターの傲慢なところ出ちゃってるんじゃないかともいえると思う。
以上のようなことで、ビジュアルや演出やキャラクターの躍動感は見ているだけで楽しいし、明確であたたかいメッセージがある総じておもしろい作品だと思うけど、好きか嫌いかと聞かれると、ちょっと悩んでしまう、そんな作品だった。
あ、インコだけは手放しで超好きだった。
キモさ、かわいさ、サイコさを併せ持った最高の造形。
その集合性によって発揮される狂気は、古き良きゾンビにも通じるところがあり、素晴らしい。
自分も眞人とアオサギがそうしたように、インコどもの頭を角材で思いっきりぶん殴りたい。