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君たちはどう生きるかのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

てっきり「風立ちぬ」に近い世界背景で”新しい戦前”を描くように思っていたが、そんな小さくまとまるはずがなかった。想像は良い意味で裏切られた。

老境に至ってもセンスオブワンダーは衰えを知らず、ファンタジー作家の本領ここにあり。宮﨑駿がこれまで表現してきた様々な世界観/ファンタジー要素が渾然一体となって新たに展開する駿バースだった。しかも、冒頭の空襲下を駆け抜けるシーンは高畑勲監督「かぐや姫」疾走シーンへのアンサーとも思えるし、「猫の恩返し」「思い出のマーニー」「アーヤと魔女」等、駿氏が監督としてクレジットされていないその他ジブリ作品にも新たな命を灯すだけでなく、自身が愛し尊敬してきた世界のアニメ作家(ディズニーやシルヴァン・ショメ)へのオマージュにも溢れている。君たちはどう生きるか、という問いは若者だけでなく、アニメ界にもまた投げられているのではないか。

完全なる善(そしてそれは時に独善的な正しさとなる)を肯定するのではなく、自分もまた嘘や心の傷を抱える一個の人間として、正しさだけでは誰も生きられないことを認め合い、それでも皆んなで生きていくことを選ぶ(それこそが真の人)という論旨展開。それに崩れる塔から脱出するラストには、たしかに新しさはないのかもしれない。ただ、むしろそこにこそ宮﨑駿の一貫した哲学が読み取れるし、今作では祖先や亡くなった母という歴史の縦軸と生命の起源までが繋がってくる。空襲で亡くなった母は火を操る少女としてどこかの世界で元気に生きているのかもしれない。とするファンタジーは、大切な誰かを失ったことがある人にとっては救いだ。自分は米津玄師など今まで聴いたことがなかったが、

僕が愛したあの人は 誰も知らないところへ行った あの日のままのやさしい顔で 今もどこか遠く

という歌詞のように、自分の父もきっとどこかの扉の向こうで本を読んでいるはずだ...と思って目頭が熱くなった。マルチバース的な世界設定を擁した死生観の変化を自身の内に感じている。

下の世界に降りてからは鳥肌。「あれは全部幻だよ。ここでは死んでる人の方が多いんだ」とか紅の豚なのだが、それはカオナシでもあるという凄みがある。わらわらが自分の娘に似ていて可愛かったのだが、DNAの二重螺旋となって地上へと登っていく過程でペリカン(地上では赤ちゃんを運ぶ存在として信じられているはず?)にパックマンのように食べられるシーンも、今までに見たことがない。あと、今作から”宮崎”を”宮﨑”に変更しているけど、それを反映しなくていいのかFilmarks.
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