稲葉光春

君たちはどう生きるかの稲葉光春のネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

ファンタジーが、他者性を重要とするならば、この作品はその意味で真のファンタジーといえるだろう。
他者を理解することは出来ない。なぜなら解釈した瞬間に自分となるからである。他者は自分の外側に存在するが故に解釈できないのであり、この作品で表現されているのもそのようなものだと思う。だが、アートの楽しみとしてあえて解釈すると、こんなふうに考えられると思う。
まず、塔は宮崎にとってのファンタジーであり、そのファンタジーは美しい論理によって美しく構成されなければならない。だが、同時に、美しく無いことも存在する現実の世界をおざなりにすることもできない。
宮崎の塔はもう直ぐ壊れてしまい、若い人に受け継いでほしいが、次の世代には現実を生きてほしいとも思う。
そんなことを考えているのかと思った。
このようなテーマ性は高畑のかぐや姫とも通ずるとおもう。美しいものだけで調和の取れた世界と、穢れたものも存在するが生き生きとしている世界があり、後者を選択するという構図である。これは、ニーチェ的な、世界や存在そのものの肯定であり、まさに大作家が表現するテーマの根源としてふさわしいと思う。

表現はメタ的であり、ファンタジーであり。印象的な場面が連続するのはフェリーニみたいな感じ。

このようなアート作品がこのような規模で公開されていることは信じられない。奇跡的だと思う。宮崎駿と同じ時間に存在できていることを神に感謝したい。
稲葉光春

稲葉光春