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君たちはどう生きるかのCANACOのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

同名小説は未読。『漫画 君たちはどう生きるか』は既読。宮﨑駿氏が『君たちはどう生きるか』にインスパイアされて製作した作品とのことだが、全く違う話だった。

同名作品は、中学生の本田潤一君(コペル君)が、元編集者のおじさんからの助言・教えを通して精神的に成長していく物語。家が貧しいゆえにいじわるされている浦川君ほか、クラスメイトとのやりとりが軸となる。

本作は、第二次世界大戦中、東京大空襲で母を失った牧眞人(まき まひと)君の物語。再婚が決まった父の相手は母の妹・夏子で、すでに妊娠している(個人的にはけっこう衝撃)。3人は東京を離れて大きな屋敷に疎開する。
夏子と微妙に距離を置きながら過ごす眞人。眞人は、屋敷の庭に棲みついている青鷺(アオサギ)に導かれ、庭の奥にある謎の塔の存在を知る。「母君がお待ちしていますぞ」とも(この鳥、喋る)。ある日、夏子が庭の奥に向かったきり、行方不明になってしまう。塔に突入することを決意する眞人。そこから始まる母の生存確認と、夏子捜索の物語。

同名作品の少年は父が他界、本作では母が他界している。また、どちらの主人公も裕福な家庭で育っているので、持たざる者の気持ちを肌感覚では理解できないところが似ている。裕福な家の子なので、その日のご飯や日銭に悩む必要はない。考えるヒマがわりとある。太宰治とも似ているかもしれない。

宮﨑アニメによく出てくる凛々しい人と、おばあと、可愛い変な生き物と、気持ち悪い生き物が出てきて、宮﨑オールスターズ感。鳥かなり多めなので、嫌いな人にはおすすめできない。虫嫌いの人は、『ラピュタ』の王蟲(オーム)が見られるならたぶん大丈夫。

評判通り難解で、謎や矛盾も多かった印象。同名作品からインスパイアされただけで、原作とは関係ないので、わかりやすくはない(同名作品は児童向け)。勝手にインスパイアされたのなら、同じタイトルにしなくてもいいじゃないか。

同名作品に、「一人一人の人間はみんな、広いこの世の中の一分子なのだ」という文があり、それが本作の鳥や白いわらわら(精子)には表現されていると思う。
小説にあるかはわからないが、漫画版には「世の中という大きな流れをつくっている一部」という言葉があり、本作に出てくるあれやこれやの集合体で“大きな流れ”を表しているのかもしれない。

しかし本作中、主人公はクラスメイトと全く関わらないし、選民感ある主人公一族とその他大勢の描写の差が激しくて、世界の捉え方が根本から同名作品と違うのではないかと悩む。同名作品も、市井(しせい)の感覚とはちょっと乖離していたけど。

ポスターに描かれている鳥は青鷺で、狂言回し的な役割を担っている。前半と後半でここまでキャラが変わるのも珍しい気がする。前半の青鷺、格好よかったな。

周囲でどのような大きな流れが起きても「決めるのは自分だ」というメッセージも共通している。いろいろあるし、時にはぐじぐじするけど、自分の決断で現実を生き抜きなさいということではないだろうか。

終わりに近づくにつれ、どんどん市井からは離れていくが、宮﨑作品なので、これでいいのだと思う。同じタイトルにした真意はわからないけど、引退撤回の流れを調べて、宮崎氏はとても嫉妬深い人なのではと今の時点では感じている。


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◻︎メモ

「宮﨑駿」で検索すると、まだ「死因」「生きてる」といったワードが出てくる。

宮﨑駿氏は2013年9月に引退宣言し、2017年に鈴木敏夫氏が同氏が引退撤回したことを示唆した。
ジブリ公式サイト掲載の「野中くん発 ジブリだより」2023年7月号によると、本作の企画書は2016年夏にできていて、2017年8月に作画イン。同年10月28日に、次回作のタイトルが『君たちはどう生きるか』になることを、早稲田大学での半藤一利さんとの対談中に宮﨑氏が突如発表したという。

2017年8月は、マガジンハウスから『漫画 君たちはどう生きるか』(作画:羽賀翔一)が発売された月だ。10月26日には編集者の佐渡島庸平さんが13万部の重版がかかって33万部突破したとツイートしている。

サイト「好書好日」によると、約半月後の同年11月、故・吉野源三郎さんの孫である吉野太一郎は、長男のお父さんとともに小金井のスタジオジブリに招かれ、宮﨑氏自身の口から本作について聞いたという。「小学生のとき、教科書に載っていた『君たちはどう生きるか』の冒頭部分に強い印象を受けた」そうだ。

本作公開後、小説『君たちはどう生きるか』の発行部数は累計180万部となり、岩波文庫歴代1位に。『漫画 君たちはどう生きるか』もまた売上を伸ばし、累積売上は197.2万部に達したという(発行部数は2018年の時点で累計210万部突破)。

結果、売上的には完全なwin-winだけど、タイトル拝借はやっぱりもやっとする。タイトルって命のようなものだから、”拝借”するのはどうかなあ。これからもずっともやっとしてると思う。

◻︎参考
「君たちはどう生きるか」宮崎駿監督が、新作映画について語っていたこと。そして吉野源三郎のこと
(「好書好日」より/文:吉野太一郎)
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