eikotomizawa

君たちはどう生きるかのeikotomizawaのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.9
私も人と違わずジブリの作品と共に歳を重ねたから、もはや宮﨑駿が新作を出す、ということだけでも尊く、歓迎する気持ちは理解できるが、個人的には宮﨑駿の作品に熱中できずにいた理由がやっとわかった。それはさておき、

「わかる人にわかればいい」私世界から宮﨑駿少年は飛び出したり、時には己を幽閉させてつみきを立てていく構図を思うと、この映画の難解さは必然を持つのではなかろうか。わかりきったと思わせてしまうことによって本作品に矛盾が生まれる。彼自身の私世界と現世という据え置きにとどまらず、私たちは時々狭い隙間から好奇心に抗いきれず、彼の私世界を期待し、こじ開けては、覗こうとしていたのだろう。こうやって論ずる行為しかり、作品を鑑賞するって、根本的にそういうことだもんな〜。好きとか、嫌いとか、評価とか、すべてはどうでもいい瑣末なことなのである。感想というものはそれぞれの私世界に居するものだから。

ものづくりは、本来エゴなものである。ひと目に触れてもらうことに向けて、味付けや噛み砕きを経て整えられ、ある種の昇華を施されていく。そして原石のようなピースは削がれていく。今回は極力その作業を行ってはならなかったんだって思うと、グッとくるものがある。わかりやすく整えるということは乱暴に言えば迎合だから。しかしアニメや映画は個人作品ではなく共同作業で築き上げるものだから、なかなか今回のような原石のような作品を仕上げるほうが難しいのではないかと思うし、この賛否両論の仕上がりにおいては恣意的なのでしょう。

多義的に捉えていいのなら、たとえ信者とて、他者の築いた私世界にとっては自身は異端の存在であり、勇気と自身の想像力を経て、自らが住まう現実へいつかは出ていく必要がある。つまりは宮﨑流の尊重ある「出ていけ!」という突き放しとしても受け取れた。即ちLive your life、自分の人生を生きろ。「君たちはどう生きるか」は、すこし皮肉めいた彼なりの餞別のようにも思えて、なんだか胸のすくような思い。

くそったれなこの世界に沢山のドアを作ってくれてありがとう!そして数えきれない人々に、いろんな形の石と、無数の種を蒔いてくれて本当にありがとう、駿さん。
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