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君たちはどう生きるかのdiesixxのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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どこに連れて行かれるかわからないまま映画を見たのは久しぶりの体験。てっきり宮崎駿の少年時代を脚色したリアリズムエッセー路線かと思っていたのでアオサギが喋り始めてびっくり。良くも悪くもいつものジブリ映画で逆に新鮮だった。
『カリオストロの城』や『となりのトトロ』、『千と千尋の神隠し』などところどころに宮崎駿の過去作の残響が響いているのに、全盛期のような活劇まで至らずに消化不良。作品のテーマと合わせて宮崎駿という天才の老いを感じずにはいられなかった。
宮崎駿は『ハウルの動く城』あたりから脚本の整合性を放棄するようになるが、それを補って余りある活劇に今回は乏しかった気がする。
眞人が火事場に向かって走っていくときのスピード感、人力車に乗る時のほとんどフェテッシュですらある「重力」の表現など前半は「宮崎駿のアニメを見ている」という喜びがあるが…。
大伯父は狂った人間界に背を向け、鳥を進化させた独自の世界を創造するが、鳥も野蛮で不誠実でさして人間界と変わらなかった…というオチ、ちょっとGotG3のハイエボリューショナリーみがある。インコ軍団お茶摘んでたり、バーで乾杯してたりしてかわいい。
イマジネーションは継承できるのか。
狂った大伯父に神のジェンガを任されそうになるけど、自分にはその資格がないからと断り、醜い世界で醜い自分を受け入れて生きることを選ぶ眞人。大事なのは友達を作ること、とうのがグッとくる。アオサギは高畑勲かな。
神のジェンガを引き継ぐことを諦め、己の世界が滅びることをよしとする大伯父を、完璧を追い求めて、多くの作品を残しながらも、息子を含めて、後進を育てることに悉く失敗した宮崎駿と置き換えて読むことも可能だろう。(13個の石は、これまでの宮崎駿の作品たち?)
実際、本作の作画監督はジブリの生え抜きではなく、庵野秀明に無理矢理頼み込んで連れてきた本田雄であった。「君たちはどう生きるか」とはたいへん説教くさいタイトルだが、要するに好きなもの作れ、ということかもしれない。若い才能を吸い取り、ほとんど破滅させながら自らの表現を追い求めてきた孤高の作家の姿はここにはない。エンドロールで国内の有名スタジオが軒並みかかわっていることを知り、グッとくる。もちろん犠牲にしたものもあるとおもうが、今現在も一大産業として花開いている日本のアニメーションの豊かな土壌を耕した最重要人物であることは論を俟たないだろう。
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