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君たちはどう生きるかのmizukiのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

物語の4分の3くらいまで、目新しいものは一つもないなと思い、意外さを感じてた。世間で認められたものの詰め合わせ。品のある美しいオマージュ。いい。いいけど、宮崎駿らしくはないと思った。モネの絵画ような蓮が浮かぶ、思い出のマーニーのような池。トトロで出てきたような森。千と千尋の神隠しに出てきたようなおばあちゃん。ハウルのカルシファーみたいな相方と、草原。新海誠作品でよく出てくるプリズム。ディズニー作品みたいなテンポ感のコミカルなシーン。西洋の名画(=世界中で認められた最強の万人受け要素がある絵)のような背景たち。
そしたらだよ、あのおじいちゃんは「先人は世界を美しくしようとしてきた。自分もしてきたけど、自分の役目はもう終わる。お前に託したい。」という旨を言うじゃん……。ここからは独断と偏見だけど、宮崎駿は先人が残してきた美しいもの(自分が作って世の中に評価されたものも含めて)をなるべくこの映画にたくさん詰め込んで詰め込んで、「今度はお前らの番だ!」というメッセージを込めたと解釈しました。
"現世は醜くも美しくもある。生きるのも死ぬのも自由。正直死んでしまえば楽。現世は火の海だよ。それでもそこにいたいの?"究極の、というか、言葉通りの、「君たちはどう生きるか(死ぬか)」…。
眞人は「現世は辛いこと、汚いことばかりかもしれない。それでも現世へ戻りたい。友達とか親とかいればそれでいいんだ!」って言い切っていた。生きることに意味なんかなくていいんだけど、同志がいることだけはこの世に生きる意味になると思う。彼は、美しさを知っている人間なんだなあと思いました。
そもそも、「楽しい世界」とか「幸せな世界」とかじゃなくて、この映画で最高の世界を「美しい世界」と形容していることにも感動した。わかる。「美しく生きようとすれば死者の世界へ引っ張られる」的な、そんなセリフもあった。わかる。
美しい世界を作るのは、権力者じゃないだろ、という解釈も展開されていってた。これも超わかる〜。美しい世界を作るってことは、権力を持って自分の一存で世界を変えることではなく、まず彼にとっては目の前の生きている母親をちゃんと「お母さん」って呼ぶことだったと思う。夏子さんのこと、最初は頑なに「お母さん」って呼ばなかった。真の"お母さん"は、火事で死んだお母さんだからって。死んだ母親に対して悲観的になることと母親を焼いた炎を恨むことをやめて、「しょうがなかった」と受け入れることも、世界を変える一歩として描かれていたように思う。そうやって、周りの人々にちょっとずつ優しくしたり、瞬間瞬間の対話を大事にしたり、そういうことを世界中の全員で重ねていけたら…それが一番、現実でやっていけそうな、「美しい世界」だって思います私も……。


展開は突拍子もなくて、ほんとにファンタジーだな〜って思うんだけど、一個一個の描写は全部わかるっていうか…リアリティファンタジーなんだよな。私はこのタイプのファンタジーが一番好き。ある現実を見た時、それを認識した脳内で受けたイメージが抽象的に出力されたら、つまり、脳を通って思考することで現実が出力されたら、それって現実より現実的じゃない?これは西田幾多郎の『善の研究』の第一章と通ずるところがあると思うのですが…どうでしょう(人の脳で認識できたもの以外"現実"になり得ない、つまり全てが虚像)。


冒頭の火事のシーンが一番良かった。なんですかあれは。風立ちぬ要素はあるけど、また違った良さ。焦燥感、不安、あと不謹慎だけど異常時のワクワク感。自然現象として、炎がとても綺麗で、恐ろしさもあって、描いている側の感情が混ざり合っているであろう様があまりにも正しく美しく、泣いた。終盤で、焼死する運命だってわかっているのに現世に飛び込もうとする母親を眞人が咎めた時に、「燃えてしまう運命でも眞人を産めることのほうが大事だし、火っていいじゃん!私好き!」的なことを言っていたのが全てだよね…。「人の体を燃やす火は全部悪」、という常識を真っ向から崩しにきてて、反感くらいそうだけどそのあまのじゃくさが心地よかった。


細かいこと言うとほんと色々あるんだけど、ちょっと石から飛び降りるシーンとかで一瞬足が内股になるところとか、その一見無駄に見える動作が人間らしさなんだと思う。自分を撮ってもらった動画などを見ると、無意識に猫背だなとか、内股とかガニ股とか、ダサいな〜って思ったりすることあると思う。そこが!アニメーションで表現されているのやばい…!アニメを作る上で、力学がわかっていないとダメなんだって、庵野さんのインタビューとか聞いてても思う(庵野監督と宮崎駿監督は師弟関係にあります)。「自然に動いたら、物理的にその動きにはならない」という言葉を、庵野さんのいろんなインタビューで聞く。映画を作るって如何にして自然を人工的に作り出すかがお仕事なんですよね。一番動きが自然だなって思うのはジブリ作品なので、宮崎駿監督が物理現象を最も美しく表現できる人なんだろうということが想像できます。


自分も大事にしてることが詰まりすぎていて、それを今ここにある自分の体と心で体感できてよかった……とスケールのでかい感情になっております…。生きててよかった。この作品を作ってくれてありがとうございます。
やっぱりまだまだやれるよなー、この世。諦めてる人ばかりなことへ対する焦燥感もわかるし。全然足りないもんな〜〜。もっと美しくしていけるよね❤️‍🔥
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