こーた

君たちはどう生きるかのこーたのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

東京大空襲で母親を亡くした主人公・眞人は、父親の再婚相手である夏子と暮らしはじめる。新しい息子の出産を控えて嬉しそうな夏子と、一方で未だ亡き母の影を追う眞人は複雑な表情をしている。疎開先の新生活の中で、眞人は家に棲みつく一羽の青サギと近所の洋館が気になりはじめる。その青サギはある日突然人語を話し、母親が生きていることを告げる。お待ちしております、と。
転校先で馴染めない眞人は、同級生と喧嘩になるが、心配をかけないために自身で頭に石で傷をつける。思いの外重症なその傷は、周囲の人・特に夏子に心労をかけ、彼にとって悪の一面として残る傷跡になる。
そんな中で妊娠のつわりと心労で体調を崩していた夏子は突然姿を消してしまう。彼女を追って眞人は森を抜ける。そこで彼と世話役の切子は青さぎの不思議な術に誘われ、下の世界に迷い込む。
下の世界はどうやら生と死の循環を担う世界で、人間はほとんどおらず死人である影の住人・新しい命となるわらわら・それを喰らうペリカン・最も勢力の大きいインコ達が住んでいた。眞人は若き切子と青サギ、炎の力を持つ少女・ヒミの協力を得て夏子を探し出すが、その世界でのタブー(お産をする神聖な場所に入ったこと?)を犯したことをきっかけに失踪した大叔父と遭遇する。彼は下の世界の神の様な存在で、積み木で世界の均衡を保っていた。そんな彼に眞人は後継者にならないかと提案を受ける。眞人は自分は穢れなき人間ではないことを理由に、元の世界に戻ることを告げる。その瞬間、インコの王様が積み木を両断したことで下の世界は崩壊しはじめる…。

まずは、さすがは宮崎駿。クリエイターとしての想像力がお見事すぎて、2時間で味わえる壮大なこの世界観を待っていたんだよと。登場する動物がほぼ「鳥」だった。鳥はおそらく人間性のメタファーなのかな。大衆的で飼い慣らされるインコ…といった形で。

眞人を見守るおばあちゃん一同とわらわらがかわいすぎて癒された。わらわらに至ってはここまでシンプルでかわいいゆるキャラがある意味ジブリっぽくなくて新鮮。若き切子は本当に千と千尋のリンを彷彿とさせる姉御肌なキャラクター。

考察には大叔父が宮崎駿で後継者不足を嘆いてる、といった見解があるが果たしてそんな浅はかな表現があるだろうか。本作を観ていても宮崎駿がそんなに悲観的な人であるとは到底思えない。何より眞人は、後継者になることを否定して自分の世界に戻ることを選んでいる、なんとも主人公的な選択をしているのだ。その読後感も崩壊する世界を嘆くのではなく、下の世界が眞人に与えてくれた成長を胸に、いずれ記憶は消えてもきっと彼なら大丈夫だろうお思わせる至極ポジティブな終わり方だった。
眞人にとっての君はどう生きるか?という選択は、僕たちにとっては平和で穏やかな世界と現実の争いが絶えない醜い世界、君たちならどう選んで生きる?と聞かれている気がした。
こーた

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