Theylivebynight

君たちはどう生きるかのTheylivebynightのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.1
半休をとって初日に鑑賞、予備知識もイメージもないまま映画を観る体験という、鈴木敏夫からのプレゼントは確かに受け取った。いったい次はどんなシーンが待ち受けるのか、食い入るように見る時間は、母親に連れられて、何も知らないまま行った映画館での時間を呼び起こし(今はもうない、京都・新京極の映画館)、その子どもの頃の記憶は、まひとへの自己同一化をいくらかなめらかにした。ジブリを観てきた自分の人生も、否応なしに反芻した。鈴木敏夫が、事前に何も打たない広報戦略について、「子どものときのように観てほしい」とメディアに語っていた事前のインタビューを知って、まんまとのせられたなと感じても、むしろ清々しかった。
そうした自分の記憶の現前は、その瞬間、映画自体を120%で観ていない、ことを意味するのかもしれない。だが、個人の記憶を喚起する作用がない映画などあるのだろうか、とも思う。観た者に何らかの感覚が生まれるなら、その背後には、その人の記憶があるに違いないはずだからである。

とはいえ、少し歳を重ねたからか、次第にまひとから距離を取るようになり、私は青鷺に肩入れした。それが最も不思議なことだった。

まひとが宮崎駿自身であるなど、解釈はいくらでもできるし、この作品については、あまりにたくさんの言説が溢れていて、確認する気力も湧かないが、それでもいくらか読んでしまうほどには刻印があり、藤本タツキさんのものは、よかった。集英社新書もまんまと買ってしまい、きわめて羅列的なジブリ年代記でがっかりしたが、高畑勲の存在は、考え直したいと思った。もうひとつ、宮崎駿も高畑勲も、作品をつくるにあたり、なぜ今この社会にこの作品を送り出す意味があるのか、徹底して考え、言葉にしてきたことを初めて知った(私は熱心なジブリファンではない)。今作は、宮崎の個人的な作品なのだろうかとも感じたが、いや、そんなことは決してないのだとも思った。
どうしても多弁をもたらす作品の波紋。宮崎駿のいるジブリという巨大なサーガは、まだかなり長い間つづいていくのだろう。
Theylivebynight

Theylivebynight