Hotさんぴん茶

君たちはどう生きるかのHotさんぴん茶のネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『君たちはどう生きるか』
「なぜ」生きるか、ではないところがミソな気がする。君たちとの呼びかけも、こちらに向き合っているようで力強い。
小説は読んだことがないけど、これを機に読んでみたい。

映画を見る前の自分のイメージ→
・説教ぽい?自然が舞台?静謐な雰囲気?鳥が主人公?人間は出てこない?サギの着ぐるみの何者かが出てくる?
広告が少なめなのもミステリアスで気になった。

結果→
面白かった!!想像を超えてきた。
ジャンル多数で、一粒で何度も美味しい作品!

前半は結構、火事や流血など描写が辛い。反対に静かで落ち着いた情景もある。
後半は、コミカル描写と冒険も加わる。

ホラー味もあり、スリリングなのも良かった。
顔に赤い液が飛び散るシーンが何度もあり不穏だったり。怪しげな動物に誘われ、謎の建物に閉じ込められたり。

可愛い顔したキャラや動物がたくさん襲ってくるのも、冷静に考えたら怖いシチュエーション。
野生生物って何考えてるかわからない。
そういうところを突いてくる怖さで、結構生々しい。生きることの表現の一部かもしれない。

ただこれら不穏さは、笑いと紙一重で。主人公が深刻な背後で、真顔な鳥がゾロゾロ出てきたりすると、なんだかシュール。

少し擬人化されたインコや、ワラワラというふわふわした可愛いキャラたち。キモカワ、だったり、ただ可愛かったり。どれも何故かたくさんいる。みんなコミカルな面があって楽しい。

何人もいるお婆さん達もユーモラス。初め、人間なのかわからないレベルにデフォルメされていてビックリした。この人たち暗い時代の割に、気が抜けるほど呑気な雰囲気で、面白くて笑ってしまった。

お婆さんたちは、主人公少年の心象風景が重なってこの見た目なのかな。
主人公たちとキャラデザインが違いすぎて、お婆さんはマスコットみたい笑
(途中なんか置物になってたし。それもなんだかシュールで面白かった。)

あといつでも、この屋敷の人みんなでワラワラ人を探してて(夢も含めて。)この屋敷どうなってるの、ブラックホール?とツッコミたくなるのが面白かった。皆、怪異をスンナリと受け止めてるのもすごい。

一方、一匹狼の青鷺。
序盤の青鷺の美しさには見入ってしまった。時代の暗い雰囲気を切り裂くように、鮮やかに舞う青鷺。なんと気ままに空を飛ぶんだろう、優美で爽やかで。良いな〜、と思っていたら。

突然青鷺が、ダミ声のオジサン声、かつ爆音で話しかけてきて笑ってしまった。しかもブヨブヨが嘴からはみ出て。急に何事!?となった。絵がリアルなのでホラーだった笑。そしてその後、青鷺が謎のひょうきんな小さいオジサンになって一緒に冒険して行くなんて。意外な展開すぎて面白かった。

他にも、癖ありの強面お婆さんと冒険したり。いつの間にかそのお婆さんが若返ってイケメン風女性になっていたり。展開が自由で面白すぎる。

こういうファンタジー、多くは10代の少年少女が旅して青春する印象がある。だからオジサンやらお婆さんが一緒に冒険するのは、新鮮で楽しい。他にも、立場も世代も種族も違う者同士が不思議な世界に集い、いつのまにか友情を築いているのにホッコリする。

主人公マヒトの声が序盤から、歳の割に大人っぽく落ち着いているのが印象的だった。
最初は親が病気だったり厳しい時代なので、大人びたのかな?と思ったけれど。

意外と、お父さんの影響もありそう。お父さんの方が、まるで子どもみたいなところあるから、その反動で子どもが大人びたかもしれない。

父親は息子を愛してるんだろうけど、多少ズレた行いが子どもに負担を与えてるよな。大人はわかってくれないってやつかな。あんな派手な車でブゥン!と登場するなんて、あの時代と地域、空気感に合ってなさそう。それでマヒトが、最初から学校で浮いちゃったかも。それと学校に高い金寄付してなんとかしようってのもな。気持ちはわかるんだけどな。

主人公は、途中自傷までして追い詰められて可哀想。
親が火事で亡くなり、母の妹と父が再婚。(時代的にそういう話をよく聞くけど、物心ついた子供には複雑だろう。)戦争の世の中。慣れない田舎暮らし、慣れない田舎の学校…。主人公のストレスは凄そうで、見ていて痛々しい。

でもだんだん、マヒトの結構突発的で好奇心旺盛な面も現れてきて。子供らしい面もあって、良くも悪くも一安心。

それにしてもジブリ全て見てるわけじゃないけど、ジブリでここまで自責の念や自傷を生々しく描いたことあったのかな?正直びっくりしたし、新たな表現への挑戦を感じた。ただ、悪戯にショックを煽ってる訳ではなく、少年の心に真摯に向き合ったように思う。

ストーリー随所で家族愛を感じたのは、ジーンとした。

主人公は新しい母の夏子さんについて、お父さんの好きな人なんです、と何度も言っていた。父の好きな人だから自分も好きになりたいって感じる言葉。 とても正直な発言で、健気。好きだとか嫌いだとか、子どもならどっちか嘘でも言えちゃうのに。そうやって簡単に流さないところが、主人公の良いところ。

主人公母の子ども時代であろう。ミヒちゃんが将来火事で死ぬってわかっても、あなたを産めるなんて嬉しいじゃない!みたいなことをいって明るく元の世界に戻って行ったのには泣けた。

自分も今の家族とか他の人たちと、時代や年齢、立場が違って出会ってたらどうなってたろうと想像する。なんだか切なく感慨深い。

また改めて考えると。一回現実世界で、火事で悲劇的な別れを遂げたのに、不思議なパラレルワールド?で再会できて喜んだのも束の間。また親子永遠の別れなのに今度は、その爽やかな明るい別れが本当に泣けた。

それにマヒトの世界では母は火によって亡くなったのに、この別世界では逆に火を操れちゃう人だったなんて。もし本当だったら、死の瞬間苦しまなかったかもしれないと、なんとなくファンタジー的に感じさせられる。

このような2度目の別れでマヒトの心は救われたと思う。

実際の人との別れでもこういう、無意識下で心を癒す現象が起きてるのかもしれない?と思わされた。

人も生物もいつか必ず死ぬ。鳥の目で俯瞰したら、それが果たして悲劇なのか。うまく言えないが、死も生きることの一部ってなんとなく伝わってきた。

他にも生死観が色々描かれていて、なんとなくハッと気付かされることがある。最近身内が亡くなったり、ニュースで有名人が亡くなったり、思うところがあるだけに。何かこの映画に描かれる生と死が、じんわりとこちらに伝わってくるような気持ち。 言葉であまり直接的に表現しないのが、見るものに判断を委ねていて良い。

自然と建物の風景は始終とても美しく、癒される。手入れが行き届いた、静かなお屋敷にはうっとり。アンティーク調の室内もとても素敵で心が落ち着く。 モデルがあるなら、実際に行ってみたい。

海も緑も深い色で綺麗。派手なアクションも少なめで、それらをゆったり見れる。なんだかリラックスできた。

風景は、絵画らしいタッチでそれも素敵。
・西洋風の廊下が、ジョルジョ・デ・キリコの絵っぽかった。(キリコさんって人も出てきたし、やっぱこの絵がモチーフなのかな)
・クロード・ロランなどの絵画に出てくる風景が見られた。(遠方の白いドーム型の建物とか)

心理描写、風景もリアリティを感じ大人が楽しめる作品だった。
幼い子どもには難しいかもしれない。子どももワラワラとかかわいい鳥とかは楽しめそうだけど、別のグロテスクなところが怖いかも。中学生以降なら楽しめるかも。

考察重ねても楽しそうな映画だけど、何も考えずボヤーっと見るだけでも価値を感じる。何か心に残る。まるで、そこにいるような感覚になる。
見て良かった。